とある街の昼下がり、ちらほらと人の行き来が見える街の入口で、1人の人物がいた。
どうやら旅人らしい。更に言うのであれば、もうすぐここを発つのだろう事が見て取れた。共にいるチョコボの様子を見たり、荷の確認をする度に、ふわふわとした茶色の髪が揺れていた。

「なぁ、そこのお兄さん?」
「ん?」

不意にかけられた声。それに旅人は振り返る。
そこにいたのは、2人の男だ。人好きをする笑みを浮かべている男に、もう1人が訝し気に笑みを浮かべる男に耳打ちする。

「ちょっと兄貴、何でお兄さん、なんて呼んだんすか。アレはどっからどうみても、 男装の美少女でしょう!」
「バカ、だからこそ、だ。ちゃんと、俺達に男だと思われてると思わせて警戒心を解かせるんだよ」
「!  なるほど、さすが兄貴っ」

こそこそと、目の前の人物に聞こえないよう、そう話す2人組。
その様子に、話しかけられた旅人は、大きめの深い蒼の瞳を瞬かせ、きょとん、と見ているが、共にいたチョコボの 目つきが鋭くなる。

「お兄さん、これから街を発つんですかい?」

気を取り直したように、そう問いかけてきた男に、旅人は軽く頷いた。

「あぁ。そうだけど……?」
「俺が見覚えないって事は、この街に来たのは昨日か一昨日辺りでしょう? だから、唐突ですが、声をかけさせてもらったんですよ。どうです? ちょっと、この街おすすめの店があるんですが、街を発つ前に見ていきやせんか? 実は、俺が働いてる店なんですけどね、店主が凝り性でなっかなか売りもんが揃わねぇ、ってんで、3~4日に1回しかやってないとこなんすよ。けど! その分、質は良いのが揃ってますんで、どうかなーと」

笑顔で話す男に、青年は興味を持ったようだった。へぇ、と声を零してから、ふと、何かに気づいたかのように、ぱちり、と目を瞬かせる。

「それは、ちょっと気になるけど……今日、店が開いてるなら、こんなとこにいて大丈夫なのか?」

小首を傾げた旅人に、男は笑って手を振る。

「あぁ、店が開いてる今日だからっすよー。店主が凝り性、って言ったでしょう。俺やこいつは、店を閉めて、店主が売りもんを準備してる間の手伝いなんでさぁ。狭い店なんで、店番は店主だけで問題ねぇですし」
「あー、なるほど。で、何を扱ってる店なんだ?」
「んー……雑多に色々ありますからねぇ。実際に見てみた方が早いですって! すぐ近くですし、案内しますよ」
「じゃあ、お願いしよ――」
「クエっクエっ!!」

男の言葉に頷きかけた、その時だった。旅人の言葉を遮るようにチョコボが声を上げる。

「何だよ、ボコ。別にちょっとくらいいいじゃんか」
「クエっクエっクエ~~~っっ!!」
「うわっ?!」
「「なっ!!」」

チョコボに反論した旅人だったが、ボコ、と呼ばれたチョコボはそれに実力行使で答えた。
つまり、旅人の襟首をくわえ、自分の背に乗せると、ダッッ、と走り出したのだ。それに驚いたのは旅人も、2人組の男も同じ事で、男達が何事かを叫んでいたが何を言っていたのか、聞くことは出来なかった。

「……ボ~コ~~」

街からかなり離れた森の中、ようやく、ボコが足を止めたことで、旅人、バッツが声を上げる。

「一体急に何すんだよっ!!」
「クエっ、クエクエっ!」
「えー。そっちこそ何してるんだって……別にいいじゃんかぁ。どっちにしろ、今日は野宿だったんだから、少しくらい出発が遅れても一緒だろ?」
「クーエエーー」
「そうじゃない、って、何がだよ」
「クエっクエっクエ~~っ! クエ、クエクーエクエックエエっ!」
「はぁ? あの2人が俺を狙ってて、しかも俺のこと女の子だと思ってたってぇ?!」
「クエっ!」

大きく頷いてみせたチョコボに、バッツはため息をつく。

「ボコの方が耳が良いから、内緒話聞こえてたのは納得ではあるけど……でも、ホント、男装してる女の子だと思うとか、どーゆー目してるんだ、あいつら……たしかに、俺はかあ……お袋似だけどさぁ……そもそもっ、年齢も! 少年とか少女とか言われるような年じゃないしっっ!!」
「クエクエ~」
「は? バッツはもう少し、自分の容姿を自覚しろって、どういう意味だよ」
「クエェ~~」

バッツの言葉に、ボコは深く溜息をついた。
確かに、本人がお袋似、と言っていたように、バッツは母親の生き写し、と言ってもいいほどよく似た顔立ちをしてる。が、決して、女顔という訳ではない。
バッツの母親は、中性的で整った顔立ちだったため、それにそっくりな彼も、中性的な顔立ちではあるのだ。故に、バッツの主張も間違ってはいない……と言いたいところだが、童顔であることと、平常時はふんわりとした柔らかな空気を纏っているため、性別を間違えられやすいのだ。が、自分の容姿に無頓着なバッツは、全くもって気付いてないのである。

「そういう意味だ、って言っても分かんないってば! それに、その会話で何で、悪い事企んでるって分かるのさ。俺の事、女の子って勘違いしただけで、ホントに店に案内――」
「クエクエ」

バッツの言葉を遮っての声は、旅人でなくても、”ないない”と言っているのが明らかで、バッツは、むぅっと、眉を寄せる。そんなバッツに、ボコは呆れたように声を上げる。

「クーエ、クエェー、クエックエクエ」
「うぐ……確かに、ラミアさんにも、悪意に鈍い、って散々言われたけどさぁ……要するに、あいつら、旅人に親切そうに振る舞って油断した所を襲って金品巻き上げるって所だったのかな? でも、殺気は当然としても、害意はちゃんと分かるしっ!」
「クエーエ、クエクエクー」
「むしろ、だからそっちは分かるように、マスターに仕込まれたんだろ、って、むぅぅぅ」

不満そうな声を漏らすが、反論がない所を見ると、己の護身術の師2人を思い描き、あり得る、と不本意ながら納得してしまったのだろう。少しの間、唸ってたバッツだったが、諦めたように溜息をつく。

「はぁ。そうだとしても……害意は分かるんだから、そうそう不意打ちとか食らわないし、そもそも、俺、そこらの奴に負ける気無いし、ボコが止めなくても大丈夫だったと思うんだけど」
「クエ」
「時間の無駄、って……う~、ごもっとも」

肩を落としたバッツに、ボコは振り返り、軽く彼の頭を突く。

「クーエクーエ。クエ、クエクエ?」
「はーい。……んー。予定に変更はなし。このままタイクーンの方に向かうよ」
「クエ?」
「あ~、そうだな。……確かに、この森なら、丁度いい泉があったし、下手に進むよりも、ここで野宿にしようか」

そう言うと、バッツはひらりとボコの背から降りたのだった。

*** *** ***

夜も更けた頃、バッツはふと、目を覚ました。ボコは完全に眠っているらしく、呼吸の度に黄色の羽が僅かに上下しているのが見えた。それを確認してから、バッツは物音を立てぬよう気を付けて立ち上がる。そして、そっと、 歩き出した。
……何かに呼ばれた気がしたのだ。そして、それが気のせいではない事を彼は知っていた。

しばし歩くと、ふと、森の中に、深い緑色の光が見えた。ぽぅ、ぽぅ、と光はバッツを取り囲り。バッツと、その周りの木々を照らし出す。
普通の旅人なら魔物かと身構えるところだが、バッツはただ、その光を見ていた。
と、ぽぅ……と光の中から幼い子供が現れる。当然、そんな現れ方をした子供がただの子供であるはずがなく、そもそも、人ですらないだろう事は明白だ。けれど、まるで初めからこうなると分かっていたかのように、バッツは驚くことはなく、ただ静かに佇んでいた。
否、分かっていたのだ。何故なら、これは初めての事ではないのだから。

『封印に限界の時が近づいている』
『闇の胎動が始まった』
『悪しき者が動き始めている』

バッツを見、次々に子供達が口を開く。その全てが、不吉なことばかりで、思わずバッツは眉を顰めた。

「……それで、俺に何をして欲しいんだ?」

呼び出したからには、何かあるのだろうと、そう問いかけると、再び子供達が話し出す。

『動き始めた歯車を止めて』
『闇に再び眠りを』
『4つの―――――を守って』

「えっ?何だって?」

最期の子供の言葉と同時に子供達の姿が、すぅ……と消えていく。

「ちょっと待てっ! 守るって何をっっ」

慌てたように言ったバッツに、微かな声が届いた。

『風、風が導いてくれる……もう、歯車は動き始めようとしてるから』

その言葉を最期に完全に光が消え、森に、元の静寂と闇が戻ってくる。

「……闇の胎動、動き始めた歯車、……守る、風の導き……そういう言い方しかできないのは知ってるけど、でも、もうちょい、分かりやすく言って欲しいよなぁ」

はぁ、と溜息をつきながらバッツは呟いた。
幼い頃から、他人には見えない……どうやら、自分だけに見える不思議なモノ。いつ頃からか、それの頼みを引き受けるようになった。
その不思議なモノが、幽霊などではなく、精霊なのだと知ったのは、親父と、旅を始めてからだった。
そんな事をなんとなく思い出しつつ、元居た場所まで戻ると、ぱちり、とボコと目が合った。自分が留守の間に目を覚ましていたらしい。

「クエ?」
「そうだよ、呼ばれたから、行ってきた」

ボコの言葉に、バッツは静かに答える。

「クエっ、クエ?」
「んー……今回はあんないいことじゃないなぁ。どっちかっていうと、不吉なことだ。 ……4つの何かを守れ、とか、闇に再び眠りを、とか」
「ク~エ~」
「そうなんだよなぁ。何かってのが分かんないと、手の打ちようがないんだよ。……まぁ、風が導くっても、言ってたから、このまま、風の向くまま気の向くまま旅をしてれば、きっと分かるさ」

そう言うと、バッツは再び横になる。

「さ、もう寝よう。……明日もよろしくな、ボコ」
「クエっ」

音がする

……歯車の廻る音が……

全てが動き出すまで

…………あと少し

fin

あとがき
あ~~……;;
とうとう、手を出してしまった、FF5小説
とりあえず、次で原作に入ります
さ~、セリフ、確認してこないとなぁ……


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