ザザーン、ザザー……

波の音が静かな部屋に響く。
海賊の命ともいえる大事な船を盗もうなどとした不届き者達を牢屋にブチ込んだ後、自分の船室に戻り、ずっと“ある物”を眺めていた。そして思い出すのは、桃色の髪をした少女。必死に何度も風の神殿へ連れて行って欲しいと懇願した姿。
……そして、彼女が身に着けていたペンダント。

「何で、タイクーンのお姫さんが俺と同じペンダントを……」

そう呟いた視線の先には、自分が幼い時から持っているペンダントがあった。一見シンプルなそれは、よくよく見ると、細かな細工がされており、中々の良品である。いつも、身に着けていたから、すぐに分かった。
……彼女の持つペンダントと、自分のもつそれが同じ物だと。

「……ただの、偶然……だよな? ……でも、今までずっと探していたのに、コレが見つかることはなかった……」

自分のこのペンダントは、ただの戦利品や部下からの贈り物ではない。
……自分の素性を知るための唯一の手掛かりなのだ。だからこそ、今までそれを大切にしてきた。

「今の生活に……不満なんてない……でも」

そう、不満なんてあるわけが無い。ある日、海に浮いていた幼い自分を助け、育ててくれた仲間達。そして、今は自分を頭として慕ってくれており、既に、自分の居場所はここだと心から思っている。
ただ……知りたいのだ。
自分自身を……自分の過去を……

「風の神殿に、……親父がいるとか言ってたな……」

そう呟いたその瞳には、強い決意の光が灯っていた。

***

ふるさとが見えた。
山に囲まれた森の奥、ひっそりと佇むふるさとが。

「-----!」
「----」

そこで自分は、同じ村の子供と遊んでる。とても幼い自分の姿をバッツはぼんやりと眺めていた。そして思う。
……あぁ、これは“あの時”の記憶だ、と。

「---!!」
「!----!!」

子供達が何事か言い争いを始める。
……が、目の前にいるというのに、そこ声が聞こえてくることは無い。

(……もう、俺が覚えてないから、だろうな)

あの時、何が原因で喧嘩になったかなんて、もう覚えていない。 その時、幼い自分“ばっつ”が涙目になって叫んだ。

「……っの、ひっく……わからずやぁぁぁ!!!」

それと同時、“ばっつ”を中心に暴風が吹き荒れる。

「うわっ!!」

突然の暴風に、小さなカ体が耐えられるはずもなく、友人は吹き飛ばされ、尻餅をつく。

「っ! だいじょうぶ?!」

思わず、自分が起こしてしまった風。それで吹き飛ばされてしまった友人を見て、“ばっつ”は慌てて駆け寄った。

「ご、ごめんっっ、だいじょうぶ? ケガしてない?」

心配そうに友人を見る“ばっつ”に彼はきょとんとして、“ばっつ”を見返した。

「びっくりしたなぁ、いきなり風が吹くんだもん……と、なんで謝ってんだ?」

その言葉に“ばっつ”は下を向く。

「……だって、今の風は……ぼくが……」

それを聞いて、友人は呆れた様に口を開いた。

「はぁ? 何言ってんだよ。バッツが、……人が今の風を起こせるわけないだろ。 そんな奴がいたら、それ、絶対人じゃないって!」

***

「……久々に、あのときの夢を見たな」

真夜中、ふっと目が覚め、バッツは小さく呟くと、そっと辺りの様子を見る。レナもガラフも、完全に眠っているようだった。それを確かめてから、1つ息をつく。

『それ、絶対人じゃないって!』

あの時言われた、あの言葉は、当時の自分には息を呑むほど衝撃的だった。それほどまで、自分が何気なく使えたこの力は普通じゃないのかと、初めて思ったのだ。
……まぁ、実際にそういうことをぐるぐると考えたのは、その日から3日程経った後だったのだけど。
何故なら、あの直後、自分は倒れ、それから3日間眠り続けていたのだから。

「……今でも、あれは“原因不明”なんだよな」

そこまで、思い出してバッツは呟いた。
それと同時に目覚めた時に見せた母のホッとした表情を思い出す。

「体のどこにも異常が無くて、ただ眠っているだけの状態だったから、医者も首を傾げてたって言ってたっけ」

そう言ってバッツは苦笑する。

本当は分かっているのだ。あの時、自分が倒れた原因。それは、感情に任せて力を使ったせいだと。しかし、自分がそれを告白することは無かった。それは、言っても信じてもらえないと思ったのもあるし、力を見せた時、どういう反応をされるか、怖かったのもある。……それに。

「約束、したしなぁ。…………ん?」

自然に漏れた自身の呟きに、バッツは首を傾げた。

「……“約束”? ……してた、のか? 誰と……?」

記憶に無いそれを思い出そうとしたその時。

キィィィィン

「っっ!!」

耳鳴りのようなものと同時に激しい頭痛に襲われ、バッツは顔を顰める。もし、縛られていない状態ならば、確実に頭を強く押さえていただろう。

『…………な……で』

「なん……だ」

……何かが、脳裏を過ぎる……

『あぶ……か……えで…………ちゃ……め』

心配そうな翡翠の瞳。
……小さな女の……子。

「あの子……は」

『危ないから人前で力を使っちゃだめ。その力は―――――――なの。 だから、使っちゃダメ。……約束だよ?』

「っっ!」

少女の、いや、精霊の言葉を一部を除いて思い出した途端、頭痛も、耳鳴りも嘘のように消え去った。それに、バッツは目を瞬かせる。

「何だったんだ……今のは」

そう呟いてから、バッツは一つ息をつく。……あの頭痛のせいか、酷く眠かった。

「……まぁ……いいや、風の神殿行って……一段落着いたら、……一度戻ろうか。でもって……ちょっと、……色々説明してもらお…………」

そう呟くと同時、バッツはふっと眠りに落ちた。

***

『……封じが、解けた』

山に囲まれた深い森の中。
驚いたように、彼女は呟いた。

『封じ? ……あの子に掛けた封じ……?』

周囲から聞こえてくる声に彼女にゆっくりと頷く。彼女の肯定に辺りがざわめいた。
そのざわめきの中にあるのは、驚きと、疑問と……微かな不安。

『私のせい……? 私が……下手、だったから?』

すっと、1人の少女が彼女の元に歩み寄る。その瞳は不安に揺れていた。それを見て、彼女は、そっと少女の頭を撫で、安心させるように微笑する。

『いいえ、大丈夫。貴方の封じはちゃんと掛かっていたわ。現に今まで封じが掛かっていたでしょう?』

その言葉に少女は顔を上げる。

『……でも、じゃあ……何で封じ解けちゃったの?』

少女の問いに彼女は顔を曇らせた。

『ごめんね、……それは、私にも分からない。……でも』
『……でも?』

彼女は呟くように静かに口を開いた。

『……何かが、起ころうとしている』

その、静かなはずのその声はやけに響いた……

***

早朝、数人の人物が近づいてくる気配を感じ、バッツは目を覚ました。魔物が蔓延るこの世界を旅しているため、自然と気配に聡くなっているのだ。

「レナ、ガラフ、起きろ」

数度小声で呼びかけると、レナがうっすらと目を開く。

「う……ん。……バッツ?」

どうしたの、と視線で問うレナにバッツが口を開く。

「海賊が来る……って! ガラフ!!」

まだ、夢の中なガラフにバッツが声を上げるのとほぼ同時、バン!と荒々しく扉が開き、数人の海賊が声を荒げた。

「立て!! お頭がお呼びだ!!」

(……さて、どうしようかな)

海賊に引っ立てられつつ、バッツは冷静に声には出さず呟いた。

(手っ取り早いのは、前みたく隙を見て頭を押さえることかな? 昨日の様子からして、結構慕われてるみたいだし。……どっちが悪者だ、って感じが否めないけど、……まぁ、こっちも自分達の未来が賭かってるんだ。手段を選んでらんないよな)

そう決意したその時、甲板から驚くべき言葉が聞こえ、バッツは思わず耳を疑った。

「これから、風の神殿に向かう!」

「「「!!」」」

甲板から聞こえてきた声にレナとガラフは顔を見合わせると、ダッと駆け出した。

「あっ、こらっ!!」

突然走り出した2人に海賊は慌てて取り押さえようとする、が。

「うわっ!?」
「うぎゃっ?!!」

追いかけようとした海賊達が揃って転倒する。

「全く……2人とももうちょい周りを見て欲しかったな」

2人が走り出しだ次の瞬間、すばやく海賊達に足払いをかけ、転倒させたバッツは嘆息するとすぐに2人の後を追い、甲板へと駆け上がった。

甲板に着くと、腕を組んだ頭と困惑した様子を隠さない海賊達の姿が目に入る。思いもしなかった言葉を聞いたような海賊達の様子からして、さっきの言葉は幻聴じゃなかったらしい。

「……あ、あの、お頭。……今何て……」
「あ? 聞こえなかったのか? 風の神殿に向かうと言ってるんだ」

恐る恐る問いかける1人の海賊に、はっきりとそう答えると、別の海賊がバッツたちの方を指す。

「お頭……じゃあ、こいつらはどうするんで?」

その問いに頭はバッツを見てから、口を開く。

「姫さんとじーさんの縄は解いてやれ」
「え……?」

バッツの縄だけは解くな、という言葉にレナとガラフは困惑する。その様子を見ながら、頭は口角をあげ、面白そうにバッツを見、口を開いた。

「……で、お前は一体いつまで縛られた振りをしてるつもりだ?」

にやり、と笑って言ったその言葉に、バッツは目を丸くする。
……そして。

「……参ったね。まさか、バレてるとは思わなかったよ」

苦笑すると同時、パサリ、とバッツと縛めていた縄が落ち、それを見て、頭以外の者が目を見開いた。

「……どうして分かった?」

小首を傾げて、そう問うバッツに頭は笑ったまま答える。

「縛られてるにしては、動きが少し変だったような気がしてな。ま、8割は勘だったんで、カマかけてみただけだったんだが……確率の低い賭けに勝てて嬉しいぜ」

その言葉に、バッツは思わず脱力する。

「……あんた、本当にいい性格してるわ」

「そりゃどーも」

頭がそう答えたその時だ。

「こりゃ、バッツ!わしらを放って何、談笑しとるかっっ!!」

ガラフの怒鳴り声に、2人揃ってそちらを見ると、縛られたままのガラフとレナ。……そして、未だ困惑の色を隠せない海賊達の姿があった。

「あ、悪い悪い」

ばつが悪そうに頭を掻くと、バッツは2人の元に歩み寄ると、どこからともかく投げナイフを取り出し、2人の縄を切る。どこからどう見ても丸腰にしか見えないバッツが、さも当たり前のようにナイフを取り出した事にその場にいた者は皆、目を見開いた。

「……バッツ、それ、どこから……」

目を丸くして口を開くレナに、バッツはにこり、と笑ってみせる。

「企業秘密。一応旅人やってるからね。剣を持ってないとき、魔物に襲われても大丈夫なように色々仕込んであるだけだよ」

まぁ、今回は意外なとこで役にたったけどね。と笑っていうバッツにレナとガラフは感心する。

「へ~」
「なるほど、旅人というのは、危険回避するために用意周到なんじゃな」
「そうそう」

「「「「いやいやいやいや、普通の旅人は、んなことしてねぇから つーか、んな物騒な旅人がごろごろいてたまるか!!」」」」

世間知らずのお姫様と記憶喪失中の老人を完全に丸め込んだバッツに、海賊たちは揃って突っ込みを入れる。海賊の言葉にレナはきょとんとし、バッツを見る。

「……そうなの?」
「さぁ? ……ただ単に無用心な旅人も多いってだけじゃないか? 別に、このくらい普通だって」

「「「「んな訳あるかぁ!!」」」」

一連のやり取りを頭は腕を組み、黙ってその様子を眺めていた。そして、バッツを見ながら、静かに口を開いた。

「……お前、もしかして“黒狼事件の立役者”か?」

その言葉に、海賊達とレナは目を見開き、バッツとガラフは首を傾げる

「黒狼って、数ヶ月前の……バッツ! そうなの?」

バッ、とバッツの方を向いて言うレナに戸惑いつつ、バッツは口を開く。

「いや……そうなの、って言われても、俺、その“黒狼事件”って何だか知らないし……」

バッツの言葉にレナは呆れたように口を開いた。

「……ガラフはともかく、何でバッツが知らないのか、すごく気になるところね。あの事件はとても有名だもの」

バッツの様子を見て、ファリスは首を傾げた。

「……本人が知らない訳ねーよな、俺の勘違いか? ……まぁいい、俺の名はファリス。よろしくな」

腰に手を当て笑っていったファリスに、レナはふわりと笑みを浮かべる。

「私は……前にも言ったけど、レナ。よろしくね、ファリス」
「わしはガラフじゃ」
「俺はバッツ。ただの旅人だ。……で、“黒狼事件”って?」

小首を傾げ、きょとりと不思議そうな顔で問うバッツに、思わずファリスは額に手を置く。

「……お前、そんな無防備な顔晒して、よく今まで無事だったな……」
「は?」
「いや、いい、なんでもない」

クエスチョンマークを飛ばしているバッツにファリスはなんでもないと手を振った。
一応、海賊の頭なんてものをやっているため、それなりに裏のことを知っている。その経験から見て、バッツのような人種は真っ先に“そういう事”を生業にしている輩に狙われるタイプであり、しかも、旅人なんてふいに、消えてしまっても不思議ではない。
非常に狙われやすい条件がこれでもかという程揃っているというのに、今まで無事だったとは、奇跡としかいいようがない。そんな事を思いつつ、ファリスは1つ息をつくと、口を開いた。

「……で、黒狼事件だったか」
「うん、……教えてくれるのか?」

澄んだ深い蒼の瞳を期待に煌かせ問うバッツに、ファリスは微笑して黒狼事件のあらましを説明する。

「数ヶ月前の話だ。黒狼っつー同業者……いや、あいつらはいけ好かねぇから同業者っつーより、商売敵だな。まぁ、そいつ等がとある民間船を襲ったんだ。目的は積荷と乗客。黒狼は裏じゃ人身売買で有名だからな。たぶん、積荷はおまけだったんだろう。……で、黒狼に襲われたっつーんで、その船に乗っていた奴等はもう2度と帰ってこないだろうと思われてたんだ。……けどな。それから、数日後の事だ。黒狼がカルナック周辺にある港町に現れた。 街は海賊に襲われると、大騒ぎ。……ところが、黒狼の船から出てきたのは海賊ではなく、襲われた船の乗客たちだったんだ。話を聞けば、乗客たちが協力し、隙を見て、海賊から船を奪い取ったっつーんだ。……戦闘がある程度できる奴等ならともかく、大半が非戦闘員である一般人がだぜ? 俺も初めて聞いた時は耳を疑ったが、事実らしい。……で、そいつらが口を揃えていうには、1人の旅人らしい人物が先導したおかげで、海賊から船を奪い取ることができたそうだ。かくして、黒狼はカルナックの警備兵に捕らえられ壊滅、乗客は全員助かり、めでたしめでたし。……ところが、その肝心の旅人はいつの間にか姿を消していて、それがどこの誰かは誰にも分からないそうだ。……で、その謎の旅人を“黒狼事件の立役者”って呼んでる訳だ。お前かと思ったのは、正直なところ直感だったんだが……俺の勘も外れることあんだな。……結構当たんのに……」

最後の方は呟くように言ったファリスに、バッツは口を開く。

「へ~……話、聞かせてくれてありがとな」

そうファリスに礼を言った後、バッツは心の中で1つため息をつく。

(……数ヶ月前の海賊の襲撃事件……ねぇ。そういや、そんなこともあったなぁ……つーか、 それそんな風に言われてたのか初めて知ったぞ……)

こっそりと心の中でそう呟くと、バッツはファリスに問いかける。

「それで、俺達を風の神殿まで連れて行ってくれるってゆーのは、本当なのか?」

問いというよりも、確認に近い言葉に、ファリスは呆れたようにため息をつく。

「さっきからそう言ってっだろ。今話に出た黒狼みてぇな悪党と違って、俺等は嘘は言わねぇっての」
「……海賊やってるって時点で、悪いことしてるのは変わらないと思うんだけど……」

ぽそりと言った、ある意味正論な反論を綺麗に無視し、ファリスは未だ呆然とこれまでのやりとりを見ていた部下達に指示を出す。

「ほら、お前等何ぼーっとしてんだ。さっさと持ち場につかねぇか!」
「……お頭、本当にそいつらに協力するんですかい?」

未だに信じられないという顔で問う海賊をファリスはギロっと睨み付ける。

「……俺の言うことが聞けないってーのか?」

人を射殺せそうなその視線に、海賊達は青くなって、首をぶんぶんと振る。

「だったら早くしねぇかっ! 返事は?!」

「「「「あ、アイアイサー!」」」」

返事を返し、蜘蛛の子を散らすように持ち場に向かう海賊たちを見て、バッツは苦笑をもらす。

(……お気の毒、としか、いいようがないなぁ……普通、海賊が俺達みたいなのに手を貸すなんてありえないって言っていい。あいつらの方が、ある意味正しい反応なんだよな……)

内心そう呟くと同時に、レナが口を開く。

「ファリス、ありがとう。……でも、どうして?」

純粋な疑問を瞳に浮かべ、そう問いかけるレナに、ファリスは笑って答えた。

「協力してやるって言ってるんだ。そんなの、何だっていいじゃないか」

そう言ったファリスに今度はガラフが問いかける。

「じゃが、風がないのに、どうやって船を動かすんじゃ?」

それは、3人に共通する疑問であり、その答えを聞くために、自然とファリスに視線が集まる。その視線を受け、ファリスは、そういえば、まだ呼んでなかったな、と1人呟くと、 ふっと、海に視線を移し、声を上げた。

「シルドラ!」

その声に、答えるように……いや、実際答えたのだろう。水面が盛り上がり、1頭の海竜が姿を現した。青みがかった銀色の鱗。その鱗についた水滴が陽の光を反射してキラキラと輝く。巨大で……美しい竜だ。
声をなくして海竜に見入る3人にファリスは誇らしげな笑みを浮かべると海流に向かって声をかける。

「シルドラ、あいさつしな」

ファリスの言葉に応え、シルドラと呼ばれた海竜が声を上げる。それは、巨大な体から発せられたとは思えぬほど、高く澄んだよく響く声だった。

「……すごい」

呆然とシルドラを見上げ、レナが感嘆の声を上げる。それにファリスは気を良くしたようだった。

「すごいだろ。シルドラは小さい頃から一緒に育ったんだ。兄弟みたいなもんさ」

得意げにそういうファリスに、感心したようにガラフも口を開く。

「なるほど、こいつに引っ張ってもらっていたから、風が無くとも走れたんじゃな」
「……そう、だな」

そう言うガラフに相槌を打つバッツだったが、その声は、どこか力が無く、それに気付いたファリスがバッツに声を掛ける。

「……どうかしたのか?」
「あっ、いや……海竜をこんな間近で見れるとは思ってなかったから、ちょっと驚いて」

ファリスの言葉に、バッツは慌ててそう言葉を返すと、心の中でため息をついた。

(……やっぱり、探し人がいたわけじゃなかったか。……そうだよな、俺と同じ力を持った人なんて、今までもいなかったし……もし、いたとしても、俺みたく隠してんだろうから、そうそう出会える訳、ないよな……)

ほとんど、無意識に探していた。どこかに、自分と同じような力を持つ人はいないかと…… この、特異な力を持っているのが自分だけじゃないという、確証が欲しかった。
……だから、この船仕組みが他の船と全くもって同じだと分かった時、期待に胸が躍った。
もしかしたら、この船に、自分と同じ力を持った人がいるのではないかと……

(……だから、ちょ~っとガッカリ感は否めないよなぁ)

そう思い、苦笑すると同時、ファリスの声が辺りに響いた。

「よし!風の神殿に出発だ!!」

***

シルドラの引く船の速さは、他の船などよりも格段に速く、一時間ほどで風の神殿に着くことが出来た。気が急いているのだろう。船が止まるやいなや、船から飛び降り、風の神殿へと駆け出していったレナとガラフにバッツは苦笑する。

(はっやいなぁ、普通の船なら3時間はかかる所だぞ)

そして、ここまで送ってくれたシルドラの引く船の速さに、感心しつつ、バッツは船を岸につけたファリスに笑って礼を言う。

「ありがとな、ファリス。おかげで風の神殿にいける。……じゃあな、また縁があったら会おう」

そう言って、船から飛び降り、風の神殿へと駆け出していった2人を追うため、自身も船から飛び降りようとしたその時。ファリスがいきなり、バッツの襟首をぐわしっ、と掴む。

「っ!!? な、何?!」

突然のことに、目を見開き、ファリスの手から抜け出そうともがくバッツに、ファリスは目を据わらせ、口を開く。

「何てめぇ、ここでお別れ的なこと言ってんだ」
「……はい?」

その言葉に、バッツは目を丸くする。

「ここに送って、はいさよなら、じゃ、ただの慈善活動になっちまうだろーが。この俺が、んなことするように見えんのか?」
「え……え~と。……一体それはどういうことか、教えてくれると嬉しいなぁ」

思わぬ事態に、引きつった笑みを浮かべ、そう問うバッツにファリスが、口を開く。

「だーかーらー、俺も連れてけっつってんだ!」

「「「「お頭!!?」」」」

思いもしなかったファリスの言葉に、バッツは目を見開き、海賊たちが驚愕の声を上げる。

「……何が目的?」
「風の神殿に入ってみたい、それじゃだめか?」

じっと、深い蒼の瞳で静かに問うバッツに、ファリスは肩を竦めてそう答える。小首を傾げ、それを数秒見つめてから、バッツは、納得したらしく、こくりと頷いた。

「う~ん。……まぁ、その気持ちが分からなくはないか。分かった、ファリスには恩があるしね。でも、神殿内の物、盗っちゃだめだからな」

あまりにも、あっさりと了承の意を示したバッツに、ファリスは目を丸くし、思わず、バッツを放してしまう。今度こそ、バッツは船から飛び降り、くるり、と振り向くと、船の上にいるファリスを見上げ、声を上げる。

「ほら、来るんだろ? もうレナたちが突っ走ってるんだから、行くぞ」

そう言ってから、背を向け歩き出したバッツに、ファリスは一瞬の間を置いてから、笑い出す。

「くっ、くくくくっ、おっもしれぇなぁ、あいつ。ふつー、海賊のいうことあっさり信じるか? ホントに、あれでよく今まで無事だったよな」

そう言って笑うと、くるりと海賊達の方を振り返り、口を開いた。

「じゃ、俺、ちっと行ってくるな」

「「「「お頭っっ」」」」

困惑したような海賊達の声に、ファリスはふっと、苦笑すると穏やかな口調で言葉を紡ぐ。

「お前等、悪かったな。今回のことは完全に俺の我侭だ」

その言葉に、海賊達は揃って首をぶんぶんと振る。

「いえっ! お頭はお頭ですから、気にしないでください!」
「俺達はお頭にどこまでもついてきますんで!」
「お頭、行ってらっしゃい」
「船はしっかり、あっしらが守りますっ!」

海賊達の言葉に、ファリスは瞠目し、そして、にっと笑った。

「おう!」

「バッツ!」

歩いていたおかげでファリスはすぐにバッツに追いつくことが出来た。
……いや、ファリスが追いつけるよう、レナ達を追わず、歩いていたのだろう。バッツはファリスを見ると、ほっとしたように笑った。

「よかった、やっと来た。急ごう。……何か、変なんだ」

そう言うと、バッツはたっ、と駆け出す。それにファリスは慌てて後を追う。

「バッツ、変ってどういうことだ?」

バッツに並び、問いかけたファリスの言葉に、バッツは顔を曇らせる。

「……この森、静かすぎる。前にこの辺に来た時はこんなこと無かった。魔物のいる……普通の森だったんだ」
「まてまて、魔物がいるのが普通っつーのも変だろ」

ファリスのもっともな言葉にバッツは口を開く。

「ここが普通の森なら、魔物がいてもいなくても、別に不思議じゃない。“この森”に魔物がいないのが問題なんだ!」
「……どういうことだ。この森は普通じゃないとでも?」
「森自体はいたって普通の森だよ。ただ……この森は風の神殿を囲んでいるんだ」
「……?」

よく分かってないような顔をするファリスにバッツは重ねて口を開く。

「クリスタルは魔物たちにとっても特別なものなんだ。……クリスタルが欲しいのか、それとも他の理由があるのかは分からない。でも、事実、魔物はクリスタルに惹かれている。 しかし、神殿……いや、クリスタルの付近には、クリスタルの力によって張られた結界があって魔物は近づけない。それでも、魔物たちはクリスタルに惹かれる。だから、自然とその周りに集まってくるんだ。つまり、この森に!」

その言葉と同時、風の神殿に辿り着き、目にしたその様子に、2人は言葉を失った。

神殿の扉が、無惨に破壊され、そこかしこの壁に魔物がつけていったであろう傷がくっきりと刻まれている。魔物のいない森、そして、この神殿の惨状。何が起きたかなんて、聞くまでもなかった。

「ひでぇ……」

思わず、ファリスの口からそんな声が零れる

「……これじゃ、中にいた連中は……」

神殿内にいるのは、主に神官や学者だ。非戦闘員である彼らに魔物に対抗する術がある訳が無い。
神殿内に入るなり、そう呟くファリスだったが、ふいにバッツは西の方を見、はっと目を見開くと、ホッとしたように、笑みを浮かべ言った。

「……いや、無事みたいだ」

その言葉に、ファリスが目を見開く。

「えっ!?」

「西の部屋から、結界の気配がする。きっと、あの部屋に逃げ込んで、聖水か何かで結界を張ったんだね」

そう、呟くように言った、その時だった。

「バッツ!」

ちょうど、バッツの向いていた方向から、先に神殿に向かったレナとガラフが駆けてくる。

「レナ、ガラフ!」

レナは、バッツの元まで、一直線に駆け寄ると、強くバッツの腕を掴む。

「バッツ! どうしよう、お父様が、クリスタルルームから、戻って来ないって! 何かあったかもしれないって!! どうしよう、私っっ」
「レナ、落ち着け」

静かな声に、レナははっと、口を閉じ、バッツを見上げる。

「……落ち着いた?」
「……うん。ごめんんさい、急に」

我に返り、一歩離れて謝ったレナだったが、そうすることで、バッツの後ろにいたファリスの存在に気付き目を丸くする。

「ファリス? どうしてここに……」
「……えっと」
「ファリスも、協力してくれるってさ」

本人が答える前に、バッツが言った言葉に、レナは目を見開きファリスを見る。

「ファリス、本当?」
「ああ」

ファリスの肯定に、レナは嬉しそうに笑った。

「ファリス。……ありがとう」
「いや。……それよりも、一体何があったんだ?」

ファリスの言葉に、レナは状況を説明するため、口を開く。

「突然、魔物が大量に侵入してきたんですって。……ここには、クリスタルの力で結界が張ってあったのに……お父様がクリスタルの元に向かってから、しばらく経った頃の出来事だそうよ。それで……未だに、お父様が戻ってこないの。皆が言うには、何かあったに違いないって……」
「じゃ、俺達がやることは、1つだな」

不安そうに言ったレナの言葉に、バッツはそう口を開いた。バッツの言葉に、ファリスとガラフが頷く。

「そうじゃな」

「行ってみようぜ、クリスタルの所まで!」

3人の言葉に、レナは一瞬、迷いを見せるが、すぐにその瞳に光を灯す。

「ええ! 行きましょう。クリスタルの……お父様の元へ!!」

  fin

あとがき
……あっれー?
ホントはボス戦のとこまではいくつもりだったんだけどなぁ……
でも、これ以上はさすがに長すぎるので、今回はここで終了。 ……てか、ファリスとバッツが勝手に動き回ってくれたなぁ。 本当は、4人全員、ゲームと同じように直接、あの部屋に非難してる大臣さんたちから、話聞く予定だったのに なぁんで、2人してあんなにおしゃべりしてんだが……
……いや、これはこれで、いいんですけどね、うん。 でも、たしかに、絡ませやすいんだよねぇ、この2人……
バツファリが多い理由が分かった気がするよ……
……さてさて、次でよぉやく、風のクリスタルを ぶっ壊しに 守りに突入いたしますw

でもって、更新、遅れてすいませんでしたーー(土下座


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