食欲をそそる香ばしい匂いと共に、パチパチと油の跳ねる音が響く。
フライパンの中のベーコンがその身から油を吐きだし、その油が熱せられている音だ。視線を下に向ければ、良い感じに焼き色が付き始めたベーコン。もう、食べられそうな具合だが、もう少し、そのままで。
彼女本日の家主の好みはカリカリになったベーコンなので。
ふんわりとした白パンに、目玉焼きとベーコン。ヨーグルトにはちみつを少々。
丁度良い野菜がなかったので、サラダはなし。代わりにグラスに注ぐのはリンゴジュースだ。揺れる淡い琥珀色の液体に、ふと、それらを用意していたヴァレリーの手が止まる。

青年の脳裏を過ったのは、いつぞやの記憶。
体調を崩して、友人であるハイプリーストの元へ転がり込んだ時のこと。
あの時、オーアがくれたのも、リンゴジュースだったな。なんて、そんな些細な事を思い出したからだった。

だから何という訳ではない。ただの連想だ。けれど、そのまま思考を紡ぎ、次はオーアのとこに泊まらせてもらうのもありかも。なんて、考えた所で、寝室から漏れ聞こえてきたのは、少し掠れた甘い声。どうやら、家主が目を覚ましたらしい。
丁度良い。朝食も用意出来た所だ。いや、正確にはブランチか。
昨夜はお互い大いに楽しんだのもあって、今現在、既に大分、陽は高く昇っていた。

「ねぇ、お願いがあるの」

そう、家主の女性が切り出して来たのは、和やかにブランチも終わり、一服している時だった。
淡い色のふんわりとした髪を揺らし、形の良い眉を少し下げて、彼女は言う。

「ちょっと、届けてほしいものがあるのよ」

ルティエまで、と彼女は言う。
ルティエであれば、空間転送サービス等を使えば、割と容易に行ける街だ。冒険者であるなら、尚更に。
つまり、同じく冒険者である目の前の女性にとっても同様で、わざわざ人に頼む必要はないはずだ。
けれど、ヴァレリーは、そんな疑問をおくびにも出さず、にっこりと笑った。

「ん、いーよ」

そのくらいなら、お安いご用、ってね。
敢えて、軽い調子で言葉を返す。
それが正解だったのだろう。ヴァレリーの返答に、ほ、と彼女の表情が緩んだ。

「あのね――」

***

「はー、あっつ……」

プロンテラの街中で、オーアは息を落とし、空を見上げた。
良い天気だ。
この前よりも、空の色が青の濃さを増して、雲は眩しいほど白く、もこもこ具合が増しているように思える。夏が近づいてきているのだと、妙に実感する。
しみじみと、そんな事を思いながら、オーアは石畳の上を歩く。
そして、考える。珍しくまともに参加したミサは何事もなく終わり、今日は特に他の用事もないため、1日フリーだ。

「どーすっかなぁ……」

どこか、狩りにでも行こうかと考えつつ、ふと、右手の路地に目が行く。
初夏の日差しは、ここ最近の、春らしい穏やかな気温に浸っていた身からすれば、少々暑い。
日差しが建物に遮られ、影に覆われているそこは、涼しそうに思えた。故に、自然と、オーアの足がそちらへと向いた。

路地に一歩、足を踏み入れた瞬間、視界の明度が一段下がる。
日差しが強かっただけで、実の所、気温はそう高くなかったらしい。日陰に入っただけで、一転してひんやりと涼しかった。
その心地よさに、オーアは1つ息を吐いて、歩き出す。

大通りからの喧騒が漏れ聞こえてくる以外は、静かな路地。
そこに響く、オーアの足音。
けれども、それは、すぐに止まる事になった。
前方に人影があったためだ。オーアの立ち位置から数m先。それは、小さな人影だった。それは、幼い人影だった。
年のころは4つか5つ、といった所だろう。そのくらいの子供なら、普通であれば、ちょこまかと、落ち着きなく動き回っているだろうに、その幼子は、微動だにせず、ただ、こちらに背を向けて、立ち尽くしていた。
そして、異様だったのは、幼子の服装だ。幼子の小さく細い体を包むのは、もこもこと見るからに暖かそうな防寒着だ。今が冬なのであれば、何らおかしな所はない。しかし、春の終わりから夏の始まりへと移り変わりつつあるこの時期。特に初夏の色が強い今日、この時の服装ではない。少なくとも、そんな厚着をして平然としていられるとは思えない。
そんな違和感より何より、オーアに囁きかける直感こそが、幼子の正体をハイプリーストの青年へと伝え、その足を止めさせる原因となっていた。

オーアは1つ、息を吐き、そして吸う。
そうして、一歩、足を踏み出した。
ソレが何か、分かっていながら、幼子へと、歩み寄る。
声を、かけた。

「おじょーさん。どうしたの? こんな所で」

軽い調子で発せられたオーアの声に、パッと幼子が振り返る。大きな緑の目と、目が合った。

「あたし? あたしに言ってるの?」

不安半分、期待半分。
そんな顔で見上げてくる幼子に、オーアは視線を合わせるべく、膝を折り、しゃがみこんで、笑って見せる。

「当たり前だろ? どうしたの、お嬢さん。迷子かな?」

優しい声色になるよう、意識しつつ紡ぐ言葉の裏で、オーアは思う。
あぁ、この子は分かってる・・・・・んだな、と。
オーアの発した迷子という単語に、幼子は、ぱちりと瞬く。次いで、むんっ、と小さな胸を張ってみせた。

「マイゴじゃないわ。あたし、かえりかたは分かるもの」
「そっかそっか。ごめんな? じゃあ、どうしたのか、教えてくれないか?」
「……あのね。あたしのおうちにいくみち、分かんなくなっちゃったの」

世間一般的には、それを迷子だというのだと、突っ込まれそうな事を、幼子は、真剣そのもの、な顔で口にする。

「……そっかぁ、分かんなくなっちゃったかぁ」

幼子の言葉に、オーアは苦笑する。大きく頷く幼子。
何気なさを装って、1つ、オーアは問いかける。

「ちゃんと、かえらなきゃ、いけないもんな?」

幼子は、うん、と頷く。

「かえりかた、分かんなくなっちゃうまえには、かえらなきゃ。でも、おうち、いきたいのに、みち……」

幼子はそのまま俯き、今にも泣きだしてしまいそうな程、声を震わせる。
その声に、言葉に、オーアは1つの結論を出した。

「――よっし。じゃあ、俺がおうち、行くの手伝うよ」

その申し出に、ぱっと、幼子は顔を上げる。

「いーのっ?」

暗闇の中で、光を見つけたかのような、否、事実、幼子にとってはそうだったのだろう。正に希望を見つけた顔で、幼子はオーアを見上げる。
クリスマスツリーのてっぺんにあるお星さまと同じ色の髪を揺らし、青年は笑う。それは、幼子にとって、とても頼もしい笑みだった。
オーアの笑みにつられて、幼子も笑う。

「おうっ。おじょーさんは、いい子だから、特別な」

いい子。その言葉を聞いて、幼子は、笑みに得意げな色を乗せた。

「いーこなのは、とーぜんよ。あたしは、サンタクロースのまちの子だものっ」

それを聞いて、オーアは少々目を丸くし、次いで、納得する。

「おじょーさん、ルティエの子だったのか。だから、そんな恰好だったんだな。……何で、こんな所に居たんだ?」
「おねぇちゃんにね、会いにいくとこだったの」
「そっか。お姉ちゃんには会えた?」
「うんっ。ちょっと、じかん、かかっちゃったけど」
「……そっか」

いたずらがバレてしまった時のような、少しだけバツの悪そうな顔をした幼子に、オーアは眉を下げて、小さく苦笑する。
そして、立ち上がると、幼子へとその手を差し出した。

「じゃあ……行こっか?」
「! うんっ」

幼子は嬉しそうに笑い、大きく頷く。飛びつくように、オーアの手を取った。

ぞわり。

瞬間、オーアの全身が総毛立つ。
引き攣りそうになった表情を意志の力で笑顔のまま留める。
視覚的には、オーアの左手は、幼子の小さな手に握られていた。けれど、触覚は違う。やわらかそうな手の感触も、生き物の温かな体温も、そもそも、手を掴まれているという感覚すら、存在していなかった。
代わりに感じたのは、冷たさだ。まるで、左手だけが、真冬の空気に包まれているかのようだった。異様に冷たい空気が、でろり、と左手に纏わりつき、じわりと、冷気が身の内に滲んでくる。

それは、分かっていた事だった。
それを分かっていて、オーアは、この小さな幽霊へと手を差し伸べた。

故に、対処は可能だった。ひそやかに、オーアは魔力を編み、身を守る。己の熱を奪われないように。己の内に入り込まれないように。
けれども、幼子を拒絶してしまわないように。慎重に。最小限ギリギリの守りを、己に施す。
ひそやかに行われたそれらに、幼子は欠片も気づいた様子はない。もしも、無邪気な振りをして、こちらに害を与えようとしていたのであれば、それがうまくいかない事に、なんらかの反応をするはず。
それがなかったのであれば、それは、オーアの判断が正しいと、この幼子は、人ではないが、まだ、悪いモノにはなっていないのだと、示しているようで、オーアの口から、ほっと、吐息が零れた。
それには気が付いたらしい。緑の瞳が見上げてくる。

「どうしたの?」
「あぁ、こっからだと、どこのカプラさんが1番近いかなー、って思ってな」

さらりと、オーアは口にする。

「もぅ。そんなのどこだっていいでしょ。ダイジなのは、ちゃんとおうちにいくことなんだからっ」

つん、と小さな唇を尖らせ。幼子は言う。
先程、泣きそうな程に声を震わせていた様子から一転して、こまっしゃくれた物言いをする幼子に、つい、オーアは小さく笑う。
本来、こういう子だったのだろう。不安が薄れ、本来のふるまいが出来るようになったのであれば、それは、オーアにとって、素直に嬉しい事だった。

「うんうん。ごめんな? ルティエまで、ちゃんと案内するから」

そう、小さく笑って謝りながら、オーアは一歩、足を踏み出した。

カプラの空間転送サービスを使って、アルデバランへ。
水の流れる音が涼やかで、心地よい。そんな穏やかな街を、幼子の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
人は疎らで、普段よりも静かなように感じる。現在、某所で開催されているイベントに人が流れているのだろう。ルーンミッドガッツ王国の首都であるプロンテラはさすが首都と言うべきか、いつでも人で賑わっているが、他の地方都市は、こんな感じに、時期によって人の増減が顕著に見られるように思う。
本当は、わざわざアルデバランに来ずとも、イベント会場の転送サービスを使えばいい。その方が、楽にルティエに行けるのは理解している。しかし、イベント会場は、人が多い。
ちらり、とオーアは幼子を見る。

害はない。
そう判じたとはいえ、人の多い所へ連れて行って、不測の事態が起きるのはまずい。それに何より、ああいう場では、知り合いに遭遇する危険性が高い。
ヴァレリーやシャン辺りならともかく――ちなみにルキナは、彼女単体なら可だろうが、彼女にこの幼子を会わせたとなれば、彼女の騎士や保護者が怖いため、可寄りの不可だ――、同業者に見つかると非常にまずい。説教は確定だろうし、リーベやフロウライト辺りオーアの魔力質を知っている相手なら、強制禊コースになりかねない。

(それは勘弁)

胸中でそんな事を呟きつつ、向かうのは、ルティエとの橋渡しをしてくれているサンタクロースの所だ。
オーアは軽く声をかけ、送ってもらう。
一瞬の浮遊感の後、ザク、と音がして、両足が冷たいものに埋まる。辺りは一面の銀世界だ。初夏のアルデバランからルティエの雪原。この気温差に思わず、さっむ、と声をもらし、オーアは辺りを見回す。
雪原の向こうに、うっすらと灯りが見える。あれがルティエだろう。

「あー……そっか、直接街中には送ってくれないんだっけ……」

オーアはそうぼやいて頭を掻く。
ルティエに行く事など、イベントがらみくらいでしかない。イベントで行く場合は、イベントスタッフの臨時転送員が街中に直接送ってくれるため、こうやって、あのサンタクロースに送ってもらう事など、ほぼほぼなく、故に、すっかり忘れていた。
こうやって、ここに来るのは、下手をすれば、一次職の頃ぶりではなかろうか。
そんな事を考えながら、オーアは視線を下げる。

「ごめんな。もうちょっと歩いて……」

オーアは途中で言葉を止める。
幼子の表情が、硬くなっているような気がした。

「……大丈夫? どうかした?」

そっと、寄り添うように、声を紡ぐ。
その問いかけに、幼子は、パッと、オーアを見上げた。

「っ、だ、だいじょーぶよっ。ただ、おうち、ずっと……」

ごにょごにょと、だんだん不明瞭になっていく言葉。その中から聞き取れた単語を繋ぎ合わせ、オーアは納得する。

(あー、なる。緊張してるのか。たぶんこれ、ホントにちゃんと分かってる・・・・・・・・・から、余計不安なのかもなー)

きっと、この幼い幽霊は、自分がそれなりの時間、彷徨っていた自覚がある。
だからこそ、現在、自分が住んでいたところがどうなっているか、分からなくて、不安なのだ。
そう判断したが故に、オーアは笑いかける。

「大丈夫。……まぁ、絶対っては、言えないけど。でも、行ってみないと、何も分かんないままだろ?」

お嬢さんが住んでた家までは、俺も一緒に行くから。
オーアは優しく語り掛ける。

「……うん」

こくり、と幼子は頷く。そして、歩き出した。
幼子は新雪に足を踏み出す。小さな足が、雪に、膝程まで沈む。ルティエに住んでいたからだろう。幼子は慣れた様子で足を引き抜き、もう一歩踏み出す。

――けれど、そんな幼子の進む後ろ。足を半分雪に埋めつつ歩いているのなら、当然あるべきもの。
足跡は、そこにはない。
誰にも踏まれた事なんてありません、という顔で、幼子の後ろには、新雪が広がり続けていた。
それを、何とも言えない気分で、オーアは見る。

本当に、ただの迷子なら、良かったのに。
そう思う。けど、プロンテラの路地裏で、あの子を見つけた時、その場ですぐ送る・・事をせず、心残りをかなえる事を選んだのはオーア自身だ。
下手に憐憫の情を持つ事は互いにとって良くない。そうなるくらいなら、始めからさっさと送ってしまった方がよっぽど良い。
アコライトじゃないのだ。そんな事くらい、分かっている。

故に、オーアは1つ息を吐く。
その一呼吸で、心のさざ波を完璧に鎮める。そして、何事もなかったかのような顔で、歩き始めた。
幼子の足と大人の足だ。少し遅れたとしても、幼子に追いつくのはすぐの話で、そこからは2人、幼子の歩調に合わせ、歩いていく。
傍から見れば、オーアが1人、奇妙なくらいにゆっくりと歩いているように見えただろう。
それは、ここまで街中を歩いている際も同様であるため、今更だ。更に言うのであれば、オーア自身は仮にそれを見られ、奇異に思われたとしても、全く気にするつもりもなかった。
故に、何てことない雑談に興じながら、2人は歩く。

この時点で、オーアは2つ、重大なミスをしていた。
1つは、直接ルティエに飛ばなかった事。
そして、もう1つは、幼子の死因を聞かなかった事だ。
それを思い知るのは、雪原の半ばまで来た頃だった。

ザッ、カ、ザッ、カ

不意に聞こえたのは、断続的な重い音。
重いモノが雪を踏みしめ、雪を蹴る音だ。足を止め、オーアは振り返る。
2本足で立つ、巨大な白い熊がいた。サスカッチ。そう呼ばれている魔物だ。

「あー……そういやここ、生息域だっけか」

その姿を見て、オーアは呟く。すっかり忘れていた。そんな声で。
サスカッチはビッグフットより強力ではあるものの、確か、そこまで強い魔物ではなかったはず。けれど、見ての通り、あれは動物種族だ。つまり、あれに有効な攻撃手段をオーアは持っていないに等しい。
正確に言うなら、無いわけではない。ホーリーライトは使えるのだから。けれど、それを使ったとしても、それなりの回数を叩き込む羽目になるのは目に見えていた。
幸い、まだ、サスカッチとの距離は離れているし、あれはそこまで足が速い訳ではない。
さっさと逃げるに限る。
瞬時にそう、判断する。

けれど、迷う。
この幼子をどうするべきか。
幼子のペースに合わせていたら、さすがに追いつかれる。けれど、幼子が狙われる事はないだろう。悪魔種族でもない限り、幽霊なんて、路傍の石でしかないだろう。なら、幼子にはこのまま進んでもらって、自分はアレを撒き、その後合流する。それが妥当か。
そう結論付けて、オーアは視線を幼子へと向けた。
丁度、同じタイミングで、オーアが足を止めたのに気付いたらしい。幼子も足を止め、振り返った。
オーアへと視線を向けるはずだった幼い瞳が、何故かオーアを素通りする。
オーアが足を止めた後も、否、止めたからこそ、よく聞こえる。雪を蹴り、踏みしめる音。
その音に吸い寄せられるかのように、幼子はそちらを見、白い巨体を認識する。刹那、幼子の瞳が大きく大きく、限界まで見開かれた。表情が引き攣り、全身が強張る。それは、紛れもなく、これ以上ない程強烈な、恐怖の表情だった。

「いっ、いやああああああああ!!!」

幼子の喉から絶叫が迸る。
反射的に、オーアが駆け寄る。幼子は、見開いた瞳に大粒の涙を浮かべ、叫び声を上げながら、必死に、助けを求めて、オーアへと両腕を伸ばしているのが見えた。

――次の瞬間、オーアの意識が揺れた。

否、とオーアは思い直す。
揺れているのは、己の視界だ、と。そして、それは当然だと、オーアは思う。

だって自分は今、必死に走っているのだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雪をちらつかせる空が、妙に遠かった。

視界の端に映る木が、妙に高かった。

その光景に、頭のどこかで疑問に思う。
けど、何を疑問に思ったのかは分からない。ちゃんと思い返す余裕なんて、ある訳がない。

だって。

ザッ、カ、ザッ、カ、ザッ、カ、ザッ、カ、

後ろから、音が聞こえる。
重いモノが雪を踏みしめ、雪蹴り飛ばす音が。
自分を追う、捕食者の足音が。
じわじわと、だんだんと、近づいてくる。

怖い。

心の底から、恐怖した。
故に走る。必死に。息が切れる。苦しい。脇腹が痛い。足が重い。それでも、走る。走らなければ。
雪原の端。そこまで辿り着けば、きっと、助かる……!
だから――。

その時、背後から足音がした。

重い巨体が、雪を踏みしめる音が。

息が聞こえた。

自分のものとは別の、荒い呼吸音が。

匂いがした。

その大きく開いた口から、生臭い、湿った獣の匂いが。

ぞ。と、全身が総毛だった。

追いつか――

その先を思うより前に、背に衝撃が走る。
次いで、灼熱。
吹っ飛ばされるように、雪原へ、顔面から倒れ込む。
一瞬、それが痛みだと、分からなかった。激痛。今まで経験した事ない程の。
真っ白な雪の中、飛び散った赤は、ぞっとする程、鮮やかで――

そこで、オーアは我に返った・・・・・・・・・・・・・・

白い、冷たい。

オーアは雪原に倒れ込んでいた。体は動かない。
頭の内から、ガンガンと響き続ける幼子の絶叫。
恐怖の、痛みの、絶望の悲鳴。

逃げ込まれた入り込まれた

即座に理解した。今、見て、感じたのは幼子の――
否、それどころではない。

ザッ、カ、ザッ、カ、ザッ、カ、ザッ、カ、

足音が、近くまで迫っていた。

身の内に、ひやりと冷たい物が滑り落ちる。
サスカッチが脅威ではないのは、己が過不足なく、十全に動ける事が大前提だ。こんな無防備、無抵抗の状態では、命がいくつあっても足りやしない。
けれど、身体は動かない。未だ、身の内に響く絶叫。
この幼い声の主に、身体の主導権を奪われてしまっていた。最も、本人に、そんなつもりはないどころか、今の状況も、オーアの存在さえ、幼子の意識にはないだろう。
ただただ、全てが恐怖に染まり切っていた。
それを、オーアは、哀れに思う。痛ましく思う。自身の幼い時の記憶を思えば、幼子の恐怖に共感できる部分もあるため、尚更に。
けれど、だからと言って、それは、道連れになってやる理由にはならない。

(ごめんな。ちょっと縛るぞ)

声すら出せない状態のため、胸中でのみ、オーアは宣言する。
魔力を操る感覚というのは、ある意味当然のことながら、それをしたことのない人間にとっては未知のものだ。故に、乗っ取って来た相手が魔力の扱いを知らないのであれば、身体の主導権を奪われていても、魔力の制御権に関しては奪われずそのままである事が多い。当然、今回もそうだった。
故に、オーアは魔力を――その瞬間、オーアの眼前いっぱいに広がる白い毛皮。サスカッチの太い足。頭上から、大きく太いサスカッチの腕が、風を切る音が、聞こえた。

ザクッ。

ぴっ、と、赤い雫が一滴。

真っ白な雪原に落ちた。

「――っ、っぶねっっ!!」

雪原を転がるようにして、オーアは直撃をギリギリ避ける。
一瞬とも言える程の、本当に僅かな間で、魔力を編み、身体の主導権を奪い返したのだ。
ギリギリで直撃を避けたとはいえ、無傷でとはいかなかった。ハイプリースト服の露出している部分。丁度、オーアの首の根本から、胸にかけて、2本の赤い線がくっきりと引かれていた。
当たり所と傷の深さによっては、しゃれにならない負傷部位だ。
けれど、幸いにも、今回は上記のどちらにも該当しなかった。
故に、オーアは体勢を立て直すと、傷を治すより先に、速度増加を己にかける。ふっ、と体が軽くなる感覚。
それを知覚するや否や、オーアは一目散に駆けだした。
三十六計なんとやら、だ。

――……ごめんなさい。

そんなこんなありつつも、どうにか辿り着いたルティエの入り口。
ほっと一息ついたオーアの身の内から、意気消沈した幼い声が響く。
その声に、オーアは、へらりと苦笑する。

「まぁ、事故みたいなもんだから。気にしないで。これでもおにーさん、色々慣れてますから」

敢えて軽い調子で、オーアは言う。
その裏で、オーアは深く安堵の息を吐いていた。

(この子に害意がなかったのも大きいけど、あと数秒でも対処が遅れたら、ガチでヤバかったからな……なんだかんだ、班長さんには感謝、かなぁ)

当時は、悪態をつく気力すら無くなるほどのスパルタで、対幽霊関係の諸々をたたき込んでくれた、退魔班ゲフェン支部にいた頃の上司を思い出しつつ、そんな事を思う。
まぁ、本当に、めちゃくちゃ、キツかったので、心からそう思えるかは、微妙だが。
いや、感謝はしているんだ、一応。スキルが身についているのは確かなので。でも――

そんな、なんとも言えない感情を持て余していると、おずおずと身の内から声がする。

――……あの、ケガ、とか、だいじょうぶ?

はて、と、オーアは瞬く。
一拍おいて、先ほどのかすり傷の事を気がつく。
薄皮一枚、とは言えないが、それでも、冒険者としてのあれこれを考えれば、傷は浅い方だ。かすり傷に分類していいものだ。
事実、傷自体は残っているものの、血は既に止まっているくらいなのだから。

「ヒール」

けれども、そんな事は口にせず、オーアは軽く自身にヒールをかける。

「な? 魔法で治したから、もう、大丈夫」

笑ってそう言ってみせれば、身の内で、幼子がほっと安堵の息をついたのが感じられた。

「それより、おうち、ここからなら、分かる?」

オーアは問いかける。と、迷うような気配。

――え、と……おもちゃコージョーのほう……
「OK。案内、よろしくな」

そう、笑って、オーアは雪の舞う街の中、一歩、足を踏み出した。

***

ザクリ、と雪を踏みしめる音が響く。
しんしんと雪の降る灰色の空。ふっと1つ、ヴァレリーは白い息を吐き出した。

金髪のギロチンクロスの手には、箱があった。片手でつかめる程度の大きさ。
プレゼントらしい。丁寧に包装紙とリボンが巻かれていた。しかし、包装紙はじんわりと色褪せているし、リボンもくたくたになっている。
そんな古びたプレゼントボックスだった。
にも関わらず、明らかに、一度も包みを開けられていないと分かるプレゼントボックスだった。

これが何なのか、何故、こんなにも古びてしまっても尚、未開封のままなのか。その理由を、ヴァレリーは知っていた。
依頼主であり、昨日一夜を共にした女性から、これを託された際に聞いたのだ。
指定された家へと歩を進めつつ、なんとなしに、ギロチンクロスは、女性の語りを思い出す。

彼女は、ルティエ出身らしい。そして、彼女には、年の離れた妹がいたそうだ。
いた・・

まぁ、つまり、そういう事である。
幼い子供だったその子は、姉である彼女にとても懐いていたらしい。
彼女が冒険者となり、ルティエを出た後、とても寂しがる程に。
当然、彼女も、誕生日やクリスマス、新年など、大きなイベントの時には、ルティエに帰っていた。
けれど。
ただでさえ、幼い子供は体感時間が長い。1日1日が大人よりも、ずっと長く感じるものだ。
方や、いつもと同じ生活を続けている幼子。方や、新しい環境に身を置き、未知のモノや場所に触れ、日々、新しい発見や技術の習得に精を出し、非常に充実した生活を送っている少女。
会えない期間に対する体感時間が大きく異なるのは至極当然のことだった。
最も、彼女がそれに気づく事が出来たのは、既に取り返しがつかなくなった後だったが……

そう、なかなか会えない姉に会いたいと。会えないなら会いに行けば良いのだと。
ある日、妹は、そんな幼子らしい後先を考えない短絡さと無謀さで、誰にも言わずに、単身、ルティエを飛び出し、そして、雪原に生息しているサスカッチに襲われ、命を落とした。

そんな語りの後、託されたのが、今現在進行形でヴァレリーが持つ、古びたプレゼントボックスだ。

『これは、あの子の誕生日に、って用意してたものだったの。けど、そんな事になって……見るのも、辛くて、しまい込んでいたのよ。しまい込んでいたのにね、ついこの前、ひょっこり出てきたの。だから、何となく、ルティエの実家にあるべきじゃないか、って……いえ、きっとこれは、私の言い訳ね。まだ、直視したくないのが、きっと本音。でも、捨てる事も……出来なくて……っ』

肩を、声を震わせ、頼み込んできた彼女。
あの様子では、思い出の多いだろうルティエの地に立つことは、酷だろう。そう、納得してしまえるような様子だった。

そんな事を思い返しながら歩いているうちに、ヴァレリーは目的地の近くまで来ていた。
しんしんと視界をまだらに白く染める雪の中。見えてくるレンガ造りの家。
その窓からは温かな光がこぼれ、家の前に立つ人影を、ぼんやりと照らしていた。

そこで、ヴァレリーは目を丸くする。
窓からのオレンジがかった光を浴びる細身の体躯。白を基調としたハイプリーストの制服、黄金色の髪。そこに立っていたのは、ヴァレリーの友人だった。

「オーアくんじゃん。どうしたんだ? こんなところで」

ザクッザクッ、と雪を踏む音を立てながら歩き、ヴァレリーは、声をかける。
が、無言。
ハイプリーストの青年は、ただただ、魅入られたかのように、家の方を見ている。
淡いオレンジの光に照らされたその横顔。それは、長らく目にすることが叶わなかった故郷を見ることが出来たかのような嬉しさと懐かしさ。自分の手から離れてしまった宝物を見るかのような、切なさと寂しさ。
そんな、郷愁の念を、めいっぱい詰め込んだかのような。
そんな、儚い表情をしていた。

ヴァレリーの友人であるオーアは、朗らかで賑やかなのを好む性質だ。
だというのに、正反対とまでは言わないが、普段とはかけ離れた表情を晒し、こちらに気づきもしない。
そんなオーアの様子に、違和感と戸惑い、少しの焦燥感が、ヴァレリーの心に、じわりと滲んでくる。

「オーア……?」

2度目の呼びかけ。
その最後が、若干疑問調になったのは、目の前の青年からの違和感が強まったからだ。
姿形も、気配も、彼がオーアだと示しているのに、何故か、その確信が揺らぎそうになる。

違和感。

彼はオーア本人のはずなのに、オーアではないかのような。
と、そのとき、声が聞こえたのか、オーアの横顔はそのままに、オーアの左目が動く。
緋色の瞳が、オーアの正面の家からオーアの左側、少し離れたところにいるヴァレリーの方を、確かに見る。

と、オーアは振り返った。ヴァレリーの方へと体ごと向き直る。
ぱちり、ぱちりと2度瞬いた。
そして、ヴァレリーが何か口を開くより先に、にっ、と笑った。

「なんだ。ヴァレリーじゃん。こんなとこで声かけられるから、誰かと思った」

奇遇だな。なんて言って、屈託無く笑うオーアは、ヴァレリーがよく知る彼そのものだ。
ヴァレリーが感じた違和感など、欠片もない。

「それはこっちのセリフ! どうしたんだよ。こんなとこで」
「ん? んー、なんとなく、気分転換にな」

ぶらぶらしてた、というオーアに、ヴァレリーは、ふーん、と声を返す。

「……オーアって、出身ルティエだっけ?」
「へ? うんにゃ。プロの孤児院出身だよ」

言ってなかったっけ? とオーアは小首を傾げる。
そんなオーアに、ヴァレリーはへらりと笑って見せた。

「いやー、なんかオーア、すっごい懐かしそうな顔で、そこの家見てたら。小さいときに住んでたとかしたのかなー、って」

ヴァレリーの言葉に、オーアは目を丸くする。
けれど、それは一瞬で、次の瞬間には、けらけらと笑い声を上げ、手を振って否定する。

「あはは、ないない」

その後、ふと、笑みの質を穏やかなものへと変え、オーアは家の方へと視線を移す。

「まー、でも、確かに。こーゆー、おうち、って感じのとこに住んで、ちゃんと親がいて、ってゆー、家族団欒? そんな子供時代に対する憧れみたいなのはあるかも」

そんな言葉は確かに。孤児院出身らしさを感じさせるものだった。
それに、ヴァレリーが何か反応する間を与えることなく、オーアは続けて、言葉を紡ぐ。

「そんな事より、ヴァレリーこそ、どうしたんだ? こんなとこで。おもちゃにでも行くとこ?」
「いや、ちょっと頼まれ事でな」

届け物をしに。
そう言いかけたヴァレリーの口が止まる。ふと、オーアの首元にある赤に気付いたからだ。

「あれ、オーア。怪我でもしたのか? それ、血だろ」

指で首元を指し示し、ヴァレリーは言う。
その指摘に、オーアは軽く頷いた。

「あぁ。ここに来る時さ、サスカッチにじゃれつかれてなー。ホーリーライトで倒してらんないし、さっさと逃げよ。ってとこで、雪ですっころんでさ。普通にさっさと素通りするだけのつもりだったから、キリエも使ってなくってなー」
「うっわ、あっぶな」
「ほんとほんと。やー、あれは、ちょっとビビった。だから、そん時のかすり傷だな。着いた時ヒールしてるし、今はもう何もないよ」

そう言って、オーアは手で血の跡を拭ってみせる。当然のように、肌に、傷はない。
それを目にし、ヴァレリーはほっと小さく息を吐く。

「油断大敵、って奴だな。でも、ちょっと納得した。だから、そんな格好なのか。寒くねーの?」

ヴァレリーはそう、問いかける。
オーアの体に付く赤と共に、気付いていた。
金色の髪の上は白。雪が降り積もっている。その一部が体温によって溶け、髪の外側を濡らし、濡れた髪は、このルティエの空気に晒され、ところどころ凍り付いてしまっている。それは、服の方にも同じ事が言えた。
転んだときに、服の合わせ目から雪が入り込み、それが溶けたのか、ハイプリースト服は、まだらに湿っているようだった。肩にも雪が降り積もり、白くなってしまっている。
寒くないのか、という問いは、それらを見れば、至極当然のことだった。
けれど、オーアは、不思議そうに瞬いた後、首を傾げる。

「うんにゃ、別になんともないけど……? さっきめっちゃ走ったからかな」

その言葉の通り、オーアに寒がる様子は全く見られない。
が、正直なところ……見ている方が寒い。ついでに言えば、たとえ今は平気だとしても、体が冷え切ってしまうのは、時間の問題でしかないだろう。
故に。

「オーア」
「ん?」

ヴァレリーは、オーアの名を呼び、手招く。
不思議そうな顔をしつつも、手招かれるままに、オーアはヴァレリーの元へと歩み寄る。

「ヴァレリー、どうかしたか?」
「オーア、ぶらぶらしてた、って事は、今特に用事ないんだよな?」

唐突な問いかけ。それに、オーアは目を瞬かせつつも、曖昧に頷く。

「おぅ。俺何もないよ」

その物言いに、ヴァレリーは一瞬、何か、小さく引っかかるものを感じた。
けれど、それは次の瞬間、オーアが続けて口にした言葉で霧散する事になる。

「ヴァレリーは大丈夫なのか? 頼まれ事の途中なんだろ?」

あぁ、オーアはこちらの用事を心配してただけか。
そう納得したのだ。ヴァレリーは、笑って頷く。

「おぅ。それなんだけどさー。頼まれ事って、お届け物なんだよ。で、オーア君にお願いなんだけど、一緒に付いてきてくんない?」
「へ?」

思わぬ言葉に、オーアの目が丸くなる。

「良い、けど……でもそれ、俺が付いてっていいのか? 邪魔になりそーなんだけど」

少々眉を下げ、オーアは言う。
それを金髪のギロチンクロスは、軽い調子で否定する。

「いやいやいや。ぶっちゃけ、オーアが来てくれた方が助かる。行くの、非冒険者さんのとこだし」

オーアは頭上に疑問符を浮かべ、首を傾げる。

「それ、何か関係あるのか?」
「大アリだって。シーフ系が1人で行くのと、聖職者が一緒とだったら、どっちの方が、何も知らない人にとって、ちゃんとした・・・・・・冒険者っぽく見えるかって話」
「……まぁ、確かに、パーティ組んでる人の方が、お話の中とかの冒険者っぽいかもだけど……?」

人数多い方が、萎縮というか、緊張させそうな気がするけどなぁ。
そんな事をつぶやいて、腑に落ちないという顔で首を捻るオーアに、思わず苦笑が零れる。
ピンときてないらしい。オーアらしいと思うと同時に少々心配にもなって、軽い調子で付け加える。

「オーア君も気をつけろよ? 普通に良い奴も確かにいるけど、やっぱシーフ系は盗賊やごろつきあがりも多いから」

その忠告に、オーアは不満げに眉を寄せた。

「それ、ちゃんとした、って、そーゆー意味かよ。……職とか、そーゆーので、しかも、偏見で、人見る奴、俺、キライだ」

ヴァレリー、すっごく良い奴なのにさぁ。オーアは苦々しい表情で、そう零す。
思わぬ反応に、ヴァレリーは内心目を瞬かせた。
嘘は何1つ言っていないのは確かだが、実際のところ、届け先は冒険者である彼女の実家なのだ。故に、そんな偏見などないだろう事は分かっている。単純に、オーアが気兼ねなく付いて来られるように、口実のつもりだったのだ。

(対応、ミスったか?)

そう思う。
素直にオーアが見てて寒そうだから、帰るか、一緒に来て暖まっていけと言った方が良かっただろうか。
そう考えた後、否、と、ヴァレリーはそれを否定する。
ただの勘でしかないが、なんとなく、それではオーアはあの場所から動かないような、そんな気がしたのだ。
まぁ、それはそれとして、オーアの反応に、ヴァレリーは苦笑する。

「お人好しだなー、オーア君は。そんなんじゃ、そのうち騙されて大変な目に遭いそう。事実として、職毎に比べると、危ない奴の割合はシーフ系が多いだろ」
「えー? ……あー……でも、確かに、あいつはローグ系だったか。あと、ハイアコん時の誘拐犯も、確かに。でも、あの件の大本は研究者だし、あれは元魔法職だったしなぁ。あと、あの辺はALL人じゃないから除外。あの件はどこぞのクリエとアサクロの尻拭いだったけど、まー、あれは、ただのお騒がせ案件だから、それも除外していい奴か……」

割とイロイロ経験しているらしい。そんな事を1人呟いた後、オーアは顔を上げ、ヴァレリーを見る。

「確かに、ヴァレリーが言う通り、シーフ系が犯人って案件、あるけどさ。俺の方だと魔法職とか研究職がやらかした案件も十分多いぞ。まぁ、これは、俺が大聖堂に所属してるから、ってのも大きいと思うけど。だからさ。ヴァレリーも同じなんじゃね? やっぱ近い職の情報の方が耳に入りやすいと思うんだ。だから、単純に、どこにでも、良い奴も悪い奴も、どっちもいる。って事だと思うよ。俺は」

微かに苦笑を滲ませて、オーアは言う。
そして、からりと表情を変え、問いかけた。

「まぁ、何はともあれ、付いてくのは問題ないぞ。どこ行けばいいんだ?」

その了承に、ヴァレリーは、ほっと小さく息を吐く。そして、笑って、オーアが先ほどまで眺めていた家を指さした。

「ここ」

金髪のハイプリーストの緋色の瞳が真ん丸に見開かれる。
その反応に、ヴァレリーは悪戯が成功した子供のような顔で笑った。

***

ぱちぱち、と炎が小さく爆ぜる音が響く。
暖炉の中で薪が燃え、炎が揺らめき、暖かな熱と光を振りまいていた。
そんな、この部屋の中で1番暖かい場所。暖炉の前に、オーアは座り込んでいた。
頭には、淡いピンクのバスタオルが無造作に被せられ、オーアの視界の半分ほどを、その可愛らしい色で遮っていた。
オーアは、ゆるりと視線を動かし、部屋の中を見る。
暖炉の前に敷かれているのは、柔らかく、温かなベージュ色のラグ。オーアが座っているのもこの上だ。
壁にはパッチワークや額にはめられた刺繍が飾られている。また、作り付けの棚には、生成り色の布が敷かれ、しおれないバラのミニブーケ、プリザーブドフラワーのアレンジメント、色とりどりの花を象ったガラス細工などが飾られていた。
花、好きなのかな、と胸中で呟くと、身の内から答えが返る。

――うん。ここ、お花なんて、ほとんどさかないから、カラフルできれいっ。おねえちゃんがね、プレゼントしてくれたのよ。

嬉しそうに弾む、幼い声。それに、そっかと、小さく言葉を返す。
そして、視線を動かせば、少々離れたところに大きめの木製のテーブルが見えた。テーブルの前後には、同じく木製の長椅子。その2つの長椅子にそれぞれ、ヴァレリーと、壮年の女性が向かい合う形で座っていた。
ふんわりとした淡い色の髪に、緑の瞳の、この女性こそ、ヴァレリーが請け負った依頼の届け先であり、幼い幽霊の母親であり、今現在進行形でオーアがバスタオルを被って暖炉の前にいる原因となった人物だ。
オーアは思い出したように、頭へ手をやり、バスタオルに触れる。そして、どこかぎこちない手つきで、頭に、髪から滴る滴に、濡れている所に、バスタオルを押し当てていく。
そうして、何となしに思い返すのは、ついさっきの出来事だ。

迷子を抱えた身で、ヴァレリーの頼みを了承したのは、特に何もないといった以上、この子の事を伏せたまま、断る口実が思いつかなかった事、用事でルティエに来たというのなら、その頼み事とやらは、ルティエ内で完結するだろうと予測した事が半々で、それに加えて、自分がいる事で、ヴァレリーが嫌な風に見られないのであれば、そうしたいと思ったのもあった。
そんな心情で、ヴァレリーの言葉に了承を返した訳だ。で、詳細を聞いたら、用事があるのは幼子の居た家だというのだから、心底驚いた。身の内に響く、驚きつつも、嬉しそうな声。
それに微笑ましさを感じつつも、巡り合わせって、たまにとんでもない確率のもん、引き当てていくよな。なんて、しみじみと思った。
だって、自分が迷子の幽霊を見つけ、そして案内をする事に選ぶ確率。ヴァレリーがこの家へ行く依頼を受ける確率。その2つが今日この時間帯に起きる確率。真面目に考えると、本当、すごいなと思う。
なんて、余計なことに気をとられている間に、ヴァレリーは家の戸を叩いていた。
はたと、それに気付いて、顔を上げる。と、同時に、家から出てきた女性と目が合った。ふわふわとした淡い色の髪に緑の瞳の壮年の女性だ。
あの子の瞳の色はお母さん譲りかぁ、なんて、呑気に考えてた自分とは対照的に、その女性は、こちらを見るなり、目を真ん丸に見開く。そして、前に立っていたヴァレリーを完全に無視する勢いで、目の前へ。
それに気づき、何をと思うよりに先に一喝された。
何て格好してるの!? と。
そのまま、強く腕をつかまれ、問答無用で、家の中へと引っ張り込まれ、暖炉の前へと座らされ、頭からバスタオルを被せられ、濡れた体を拭いて、よくよく温まるよう、言い渡され、今に至る。
ちなみに、ヴァレリーは、腕を引っ張られていく自分を見ても、驚かない所か、ほんそれ、という顔で、深く深く頷いていた。それに、思うところが無いと言えば、嘘になる。
や、マジで。用事あって来たの、ヴァレリーだろ? いいのかよ、と、つい、思ってしまったのは、紛れもなく本音であるので。

そんなヴァレリーと、女性は、改めて話を始めたらしい。
パチパチと響く暖炉の音の方が近いせいもあり、具体的に何を言っているのかまでは聞き取れない。が、なんとなしに、2人を眺める。
と、ふと、身の内で幼子の笑い声がした。

――ふふ。おかーさんね、あたしにも、よくおんなじこと言ってたのよ。なんてカッコウしてるの! カゼひくでしょっ、って。おそとにね、おそびに行ってね。ゆきんこになって、かえってくるの、いっぱいあったからっ。でもね、あたし、サムいの、とってもとってもへーきなの。だから、ゆきんこになっちゃうんだけどね?

きゃっきゃと、はしゃいだ声を上げる幼子に、ふっ、とオーアの口元が綻ぶ。

「いい、お母さんなんだな」

それは、とても穏やかな声色だった。

――うんっ! だって、あたしのおかーさんだもん。

嬉しそうに、得意げな色を乗せて、幼子は言う。

――あたし、おかーさんも、おねーちゃんもだいすきなんだから、とーぜんよっ。

腰に両手を当て、胸を張る幼子の姿がありありと目に浮かぶような声色だった。
そんな幼子の声を聞いていたオーアの瞳が、ふと、瞬く。視線の先では、ヴァレリーが女性へと何やら渡しているらしい様子が見えた。
あ、と幼子が声を漏らす。

――おねーちゃんだ。

「ん?」

幼子の言葉に、オーアはこの部屋のドアや窓へと視線を巡らせる。
他人の姿も、気配もない。

――そっちじゃないわ。あのおにーさんがもってきてくれたプレゼントのハナシよ!

プレゼント。
言われてオーアは、視線をヴァレリーと女性の方へと戻す。
ヴァレリーの手から、女性の手へと渡ったそれは、なるほど確かに、包装された箱のように見えた。

――おねーちゃんね、あたしのおたんじょーびとか、クリスマスとかにね、あと、おうちかえってきてくれたときとかね、プレゼントくれるの。あれもね、そーなの。ほんとーよ? だってあたし、おねーちゃんのおうちでみたもんっ!
「そっか」

オーアは相づちを打つ。うんっ、と幼子の声。
もし目の前に居たら、大きく頷いているだろう声色だった。

――きっとね、あれもね、お花なのよ! おねーちゃんね、いっつもお花くれるの。ガラスのキラキラしたお花は全部おねーちゃんがくれたのっ。

先ほどと同じような事を再び幼子は言う。作り付けの棚。そこに飾られていたガラスの花々は1つづつ、姉がプレゼントしてくれたのだと。
そこで、ふと、幼子のトーンが下がる。

――おねーちゃんね、言ってたの。あのタナがお花でいっぱいになって、お花ばたけになったらね。あたしもボウケンシャになってもいーよ、って。あたし、おねーちゃんとおんなじか、サンタさんのおてつだいか、マヨってたの。……ちゃんと、えらびたかったなぁ。お花、ふえて、お花ばたけになるの、見たかったなぁ。……もっと……

ざわり。
身の内が騒めき、揺れ、蠢く。その感覚に、オーアは一瞬、息を詰めた。
その感覚は本能的嫌悪を催すものだったためだ。否、それよりも。強く響いたのは身の内に氷塊を滑り落としたかのような、ひやりとした冷たさだった。
それは、焦燥だ。
オーアがこの幼子の未練を叶えてやる事を決めた。
けれど、実際に、生前の思い出が強く残るこの光景を見て、未練を叶えるどころか、強くなってしまったら?
そんな不安と焦りだった。
否、否、そんな危険性、初めから分かっていた。分かっていて尚、信じる事を選んだのだ。
オーアは1つ、息をつく。その一呼吸で平常心を取り戻す。そして、そっと、問いかけた。

「かえるの、イヤになっちゃったか?」
――うぅん。かえらないと、おねーちゃんにも、おかーさんにも、きっと、もっと、シンパイかけちゃうもん。

間を置かず、返ってきた言葉に、オーアはほっと息をつく。今度は、安堵の息だった。

――……けどね。

ぽつん、と声が落ちる。寂しそうな、切実な、声だった。

――あたしも、もっと、なにか、おかえししたかった。いっぱい、いっぱい、だいすき、ってしたかったっ!

じわり、と濡れた声。
けれどもそれは、どうしてやることも出来ないものだ。
故に、オーアは返すべき言葉を見失う。
なんとなしに視線を向けていた先でも、女性が両手で顔を覆い、俯く所を見てしまう。女性が泣いている所を見るのは、とてもとても苦手だった。故に、つい、視線を逸らすように、下を向く。
視界がベージュ一色に染まる。オーアの座るラグの色だ。意味も無くそれを眺めた、その時だ。

カタン。

背後から聞こえた音に、オーアはバッと振り返る。
けれど、何もない。ただ、温かみのある室内と、白く曇る窓があるだけだ。

――おそと、かぜ、つよくなってきたのね。

言う幼子に納得する。

「あぁ、なるほど。今の、風の音か」

呟きながら、視線を窓に向ける。
外の様子を、と思ったのだが、真っ白に曇った窓は完全に外の様子を覆い隠してしまっていた。

――あ。

不意に、幼子が声を上げた。
そして、問いかけてくる。

――おかーさん、まだ、おはなししてる?

問われて、オーアは視線を向ける。
女性は、ヴァレリーから受け取った箱を手に、何やら話しているようだった。それを見て、幼子は言う。

――あのね。そーっと、まどのところまで、行ってほしーの。

唐突なお願いに、オーアは瞬く。
この幼い幽霊がどうしたいのか、よく分からなかったからだ。とはいえ、そのくらいなら大丈夫・・・だろうと、オーアは立ち上がる。
そして、そっと窓へと歩み寄る。
白く曇った窓。それでも、近づけば、うっすらと外の景色が見えた。
なるほど確かに。吹雪、とまではいかないが、先ほどよりも雪の勢いが強くなっているようだった。
外の様子を見るオーアに、幼子は言う。

――ねぇ。手、かして?

その言葉に、オーアは一瞬、息を詰める。
じわり、と幼子に対する警戒心がにじみ出て、急速に、身の内に広がっていく。

「そ、れは……ちょっと、ダメかなぁ。手伝い、ならいいけど。これは、この体は、おにーさんのものだから」
――わるい子のおねがいなのは、分かってる。けど、これは、やってもらうのはダメなの。あたしがやんなくっちゃイミないのっ。ねぇ、おにーさんおねがいっ。ちょっとだけっ、まどからはなれたら、すぐかえすからっ。やくそくするからっ!

必死に言い募る幼子に、オーアは迷う。
退魔班の一員としては、許容してはいけない類いの願いだ。
危険性だって、重々、分かってる。けど…………
迷った末、オーアはため息をつく。

「……左腕だけ。窓から離れるか、終わったら、すぐ返す事。それを、約束してくれるなら……いいよ」

少しだけ固い声で返したオーアに、喜色で弾んだ声が飛びつく。

――する! するわ! やくそくっ!! ありがとうっ!

利き腕が使えるなら、何か・・起きても対処できるはず。
それに――巻き込みたくはないが――近くにヴァレリーもいる。最悪の、万一の場合は、手を借りれる。
そう判じたオーアは、幼子の願いを受け入れることを選んだ。
幼子にかけた枷を緩める。
完全には解かない。
枷を完全に解くと、ほぼ強制的に送る・・事になるためだ。
あの時、雪原で己の体を取り戻すためにオーアが使ったのは、解除することで完成する、そういう術式だった。
そして、自身の護りを一部解除する。

ぞぞ。

次の瞬間、左腕に冷気が流れ込む。
けれど、そう感じたのは一瞬だ。すぐに冷気は消え失せる、否、左腕の感覚がなくなる。
勝手に左腕が動く。その、強烈な違和感に、顔を歪めそうになるのを耐えつつ、オーアは問いかける。

「それで、どうするんだ?」

その問いに、幼子は楽しげに笑う。

――いたずらするのっ!

同時に、勝手に左腕が上がり、窓へと手が伸びる。

――わぁ、すごいね。おにーさん。上まで手がとどく! たぶん、あたし、おとなになっても、こんなおっきくなんないよっ!

すごいすごいと、きゃっきゃとはしゃいだ声を上げながら、迷い無く、幼子は白く曇った窓を指先でなぞっていく。
窓に、透明な線が引かれていく。
それは、どこか歪で不格好な文字だった。
それは、まさに、文字を覚えたての幼子らしい文字だった。
それを見て、ふと、オーアは気付く。

「……おじょーさん、もしかして、左利き?」
――うんっ。こっちの方がとくいっ

案の定、そんな答えが返る。
幼子の文字に、幼い不格好さはあっても、書き慣れない手を使うような不自由さを感じなかった。
オーアのその感覚は正しかったらしい。

迷い無く、指はなぞる。

”おかあさん” と。”おねえちゃん” と。

窓に触れているのは、オーアの指のはずなのに。

オーアのそれよりも細い、まるで幼い子供の指がなぞったかのような、細い線が増えていく。

”ごめんなさい”

”ありがとう”

幼い子供の、精一杯のメッセージが増えていく。

”げんきでね”

”まってる”

そして、最期に。

”ずっと いっぱい だいすき”

”リーディアより”

書き上げると、幼子は、窓に残った白へと、手を押しつけた。
そして、離す。
と、どういう訳なのだろうか。
押しつけたのは、確かにオーアの手だったのに、窓に残された手形は、小さな子供のものだった。
不可思議な現象に、思わずオーアは目を丸くし、瞬く。

りんっ、と高らかに、幼子の声が響いた。

――おわりっ!

そして、幼子は言う。

――おにーさん。あたし、かえるわ! かえらなくっちゃ。こんどこそ、ホントにマイゴになっちゃうっ。

その声が、少しだけ震えていたことに、気付かないふりをして、オーアは小さく声を返した。

「そっか。分かった」

口の中で転がすように、そう返して、オーアは窓から離れると、そのまま、ヴァレリーと女性の座るテーブルへと歩み寄る。

「話し中、悪い。ちょっと用事、入っちゃったから、先行くな」

2人に対して、そう言ってから、オーアは可愛らしい色のバスタオルを軽く畳み、テーブルに置いて、女性へと笑みを向ける。

「これ、バスタオル、貸してくれてありがとうございました。思ったより濡れてて、びっくりした。から、とても助かりました」

笑って礼を紡げば、つられたように、女性も微笑する。

「どういたしまして。ルティエは寒いんだから、体を冷やすような事をしちゃダメよ。気をつけてね」

そんな温かい言葉に、オーアは子供のように、はーい、と返して、外へと出るべく、足を踏み出す。
ついでに、ヴァレリーの側へと寄り、声を潜めて口を開いた。

「ここ、お子さんいるのかな? なんか、窓に文字の練習って感じでかわいいらくがきされてた」

何てこと無い調子で、そんな事を紡いでから、ヴァレリーの返事を待つことなく、外へと向かう。
後ろから、ガタッ、と勢いよく人が立ち上がったような物音が聞こえたが、気付かなかったふりをする。
敢えて、女性にもどうにか聞き取れる程度に声を潜めたのは、功を奏したらしい。

――おにーさん。

幼子の声に、オーアは笑う。

「おじょーさんは、贈るだけで満足だったけもしれないけど、せっかくの最期のお土産なんだから。ちゃんと、受け取られるべきだと思うよ」

そう紡いで、目の前の扉。玄関の扉を開ければ、薄暗い中、煌めくイルミネーションに他の家から零れる光。
雪はしんしんと降り続いているが、風はまた収まってきているらしい。空を見上げれば、分厚い灰色の雲に覆われていた。まだまだ、雪がやむ気配はなさそうだ。
そんな、実にルティエらしい景色がオーアを出迎えてくれていた。
オーアはそのまま歩く。ざくっ、ざくっ、と音を立て、雪の中を歩き、幼子の家から少し離れた場所、人目に付きにくい所にまで来ると立ち止まる。

「この辺でいい?」
――うんっ。

幼子の返事を受け、オーアは枷を解く術式を完成させる

ふわり。

微かな風が、オーアの周囲をぐるりと回り、吹き上がっていった気がした。
手を離した風船のように、ふわりと淡い光がオーアの体から抜け出して、空へと登っていく。
どんどんと。どんどんと。

――おにーさん、いろいろ、いっぱい! ありがとーねっ!!

そんな声を最後に、いくべき所へと還った魂を見送って、オーアはほっと息をつく。
文字通り、肩の荷が下りた。幼い魂を最良の形で見送ることが出来た、安堵の息だった。
そして、自然と息を吸った。次の瞬間。

「っ、さっむっっ!!?」

ぶるる、とオーアは震え上がる。
反射的に声を上げ、腕を交差させるようにして、己の両腕を摩る。
今の今まで、特に何も感じていなかったというのに、唐突な体感温度の変化に驚く。
が、一拍おいて、納得した。

「そういや、あの子、寒さに強いみたいな事、言ってたっけ」

気付かぬうちに、感覚が引っ張られていたらしい。
あの幼子を縛りすぎないように、反射的に拒絶してしまわないように、敢えて色々緩くしていたのは確かだ。
けれど、敢えてそうしたからこそ、それを言い訳には、決して出来ない。

「はー、俺もまだまだだなぁ」

ため息と共にそんな呟きを落とす。
と、独り言でしか無かったはずのそれに、返す声があった。

「何が?」

見知った声にバッと振り返る。
当然のように佇んでいたヴァレリーに、オーアは目を丸くした。

「ヴァレリー。向こうはもういいのか?」
「オーアこそ、用事はいい訳?」

質問で返してきた金髪のギロチンクロスに、オーアは頷く。

「おぅ。無事、迷子のお見送りが終わったとこだからな」

にっこりと、満足げな笑みで、オーアは言う。

「迷子の見送り、ねぇ」

オーアの返答を、ヴァレリーは口の中だけで転がした。と、少し遅れて視線に気付く。
オーアがした問いかけ。その返答を素直に待っているハイプリーストに、ヴァレリーは軽く肩を竦めて見せた。

「こっちも、あれからすぐ解散したから、問題ない。ってか、お話しどころじゃなくしたのは、オーアだろ?」

確信を持っての問いかけだったが、オーアは1つ瞬いた後、微苦笑を零す。

「俺じゃあ、ないよ。まー、確かに、あの時1番窓の近くに居たのは俺だけど。俺、字、きれいな訳じゃないけどさ、でも、だからって、むしろ余計に、あーゆー、ちっちゃい子が書いた字! みたいなのは書けないって」
「……ま、オーアだったら、あんなもし悪戯なら質の悪い事、しなさそうではあるけど。字の癖とか、名前とか、本人のにしか見えない、って言って泣いてたし」

そう言って、ちらりとオーアを見れば、当の本人は苦笑を深めるだけだ。
その反応を見て、ヴァレリーは、そこで言葉を止めることを選ぶ。

ヴァレリーには、確信があった。
あの窓の件はオーアが関わっていると。
いくら家の女主人と話をしていたからと言って、あの程度の空間気配把握、当然出来ていた。だから、事実として知っている。
あの場所には、自分含めて3人しか居なかった事。ふと、オーアが窓の側にまで行っていた事。そして、窓から離れてすぐ、こちらへ来て言葉を残し、去って行った事。
その時の言葉だってそうだ。本当に自分への内緒話なら、耳打ちを使えば良い。なのに敢えてそう発言したという事は、本当にそれを聞かせたかったのは、彼女の方なのだろう。

そんな自分が感じ取ったモノ、オーアの反応、ついでにオーアの性格や職なんかと総合すると、割とオカルトじみた予測が出てくるのだが……まぁ、本人が言いたくないのであれば、無理に聞き出す必要もない。そう判じたのだ。
そんなヴァレリーに、オーアは苦笑を崩さぬまま、言う。

「ホントに、俺は何にもしてないよ。ただ、文字通り、手を貸しただけだからな」

それは、オカルトな気配が、更に高まったんだが。
思わず、つい、ヴァレリーはそう思う。が、それは、つまり、あのメッセージが本物・・であるという事でもあって……
と、ここで1つ、懸念が生じた。

「オーア。迷子の見送り、って言ったけど、その迷子、どこ行ったんだ?」
「ん? どこって、行くべきとこだけど……」

ほぼ反射で答えてから、ヴァレリーの言いたいことに気付いたらしい。オーアは、あぁ、と声を漏らし、穏やかに笑う。

「大丈夫。あの家には最期の寄り道しただけだから、あそこにはもういないよ。……寂しいことでは、あるんだろうけどな」
「そっか」

ヴァレリーはそう零して息を吐く。湿っぽい空気は好むところではない。故に、一拍置いた後、ヴァレリーは飛びつくようにして、オーアの肩へと己の腕を回す。
わっと、不意打ちを受けたオーアから、驚きの声が飛び出した。

「てかオーアくん。最初は黙秘だったってのに、さらっと言っちゃっていーのかよ」

敢えて、先ほどオーアがしたように、オーアの耳元で声を落とす。
拒否したければしやすいようにだろう。態と軽い調子で紡がれた言葉に、オーアは微かに目を丸くする。次いで、再び苦笑した。

「別に黙秘したつもりはないぞー。実際、ウソは言ってないし。まー、あんま詳しく話す気がなかったのもホントだけど。でも、まー、ヴァレリーにだったらいいかなー、って思ってさ」

具体的な理由を挙げようと思えば、いくつもある。
あの幼子の未練が最上の形で果たされたのは、家に同行させてくれたヴァレリーのおかげだから。
実際バレていたように、ヴァレリーなら、自分が窓に近寄っていたことくらい把握してるだろうと思っていたから。であるのなら、誤魔化すのは難しいだろう事は、既に予測済みだったから。
あの幼子と直接の関係はない、あの子に対して未練を持つことはない人間だから。
その手の事を極端に苦手にしていないし、全く信じないタイプでもなさそうに見えたから。
あと、単純に、ヴァレリーなら大丈夫と、信頼しているのと、少々、己のために口止めしたいという我欲も混じっている。
これらを全て言う必要は無いと、色々省いた結果が、先の発言だった。

それを受け、ヴァレリーは軽く目を丸くした後、笑みを見せる。

「へーぇ、俺だったらいーんだ?」
「ん。更にゆーなら、今回のこと、他の人、特にプリ系の人には内緒にしてほしいなー、っても、思ってたり?」

少しだけバツが悪そうな笑みで、こちらを伺うように言葉を紡ぐオーアに、ヴァレリーは笑みを崩して片眉を跳ね上げる。

「そーいう事を言うって事は、オーア。あれって、やっぱ、大聖堂の組織そっちの規律か何かに違反してんの?」
「はい?」

呆気にとられた表情を晒した後、オーアは慌てて、言い募る。

「いや、いやいやいやっ、そこ大丈夫っ!! 無害そうに見せかけた罠張ってる奴だったり、寂しいって悪気無く道連れにしようとしてきたり、中途半端に未練を叶えられて逆に未練が強まって大惨事――って程じゃ無くても、まぁまぁ大事になったりする事もあるから、非推奨の自己責任ってだけでっっ! 違反ではないからっ!! だけど、何かの拍子で、そっち関係の俺の知り合いに知られるとガチの説教案件ではあるから、内緒にしてて欲しいなーって」

へらっと誤魔化し笑いを浮かべるオーアに、ヴァレリーは呆れと心配の混ざった目を向ける。

「オーアくん、それはむしろ、怒られてこい、って感じなんだけど」
「なんでっ!?」

叫ぶオーアに、ヴァレリーは理解する。
今の失言、オーアは無自覚のようだ。

「オーアくんさぁ、今、自分が何言ったか、ちょーっと振り返ってみ? 端から聞いて、そりゃ十中八九怒られるわ、って事、言ってるからな? けっこーかなり、渡る必要の無い危ない橋渡ってた、って事だろ、それ」

ヴァレリーの言葉に、オーアは眉を下げる。

「そ、れは、確かに、そーではあるけど……で、でもっ、この子は大丈夫って思ったからで、誰彼構わずこーゆーコトしてる訳じゃないしっ! 大丈夫だろうってのは、思ってても、ちゃんとしっかり警戒はしてたしっっ! だから、実際はそんな危ないのを渡ってた訳じゃないからっっ! だから、内緒っ! なっ!?」

「なら、別に口止めする必要もなさそうだけど?」

「うー、割と結構心配性な先輩がいんだよ。顔広いから、対策しとかないと、何かの拍子で耳に入って大騒ぎされそうでさぁ……」

まぁ、心配してくれんのは、ありがたい事ではあるんだけど。
頬を掻き、オーアは苦笑しながら言う。
それにつられるように、ヴァレリーは表情を緩めた。仕方ないなぁ、と小さく苦笑する。

「りょーかい。内緒にしといてあげる」

その言葉に、オーアは心底安堵したように、ため息を吐く。
その分かりやすい、素直な反応に、ヴァレリーは、くつりと笑みの質を変える。

「まぁ、そもそも、最初はそのつもりだったし」

ぱち、ぱち、とオーアは瞬く。
そして、じとりと、ヴァレリーを見返した。

「ヴァレリー」

揶揄ったな。と、非難めいた視線を向ける緋色の瞳に、ヴァレリーは軽く肩をすくめる。

「最初は、って言っただろ? グレーゾーンだったり、端から見て危険でもイケると確信したからやる、って事はこっちも普通にあるし。そーゆーのは外から、あーだこーだ言うもんじゃないだろ? だから、オーアのもそうなんだろうなーって、思ってたら、オーアくん、墓穴ってか、聞いてて逆に不安になる事ばっか言ってんだもん。あれ? これ、むしろオーアの知り合い探して、教えといた方が逆にいい奴? って、ちょっと思っちゃったくらいだからな?」
「ちょーーっっ、マジでやめろよっ! それっっ!!」
「しないってば。そもそも、俺とオーア、共通の知り合いって、今のとこ、まだ居ないだろ?」
「……確かに。でも、ヴァレリーも顔広そうだから、知らないだけで、実は居ても不思議じゃ無いけど」
「まーな。だから、今のとこ」

ヴァレリーの言葉に、オーアはなるほど、と1つ頷く。
それを受けてから、ヴァレリーは口を開く。

「つーか、オーア。もう1こ言わせてもらうけどさぁ。俺、オーアを知らない奴に、オーアの事話す程、口軽くないからな?」

仮に言うとしても、友達が、くらいにぼかすっての。
軽い不満を露わにして言うヴァレリー。それを見て、オーアはすとん、と納得する。

「そー、だよな。ヴァレリーはそゆ事しないよな。……っ、悪い、ヴァレリー、俺、すっごい失礼な事言ったっ!」

ぱんっ、と音を立てて両手を合わせ、オーアは頭を下げる。
それに呆気にとられたのはヴァレリーだ。軽口の延長で口にしたことだというのに、目の前の友人は真面目に謝ってきたのだから、驚きもする。
そう心の中で言い訳してから、ヴァレリーはへらりと笑みを形作る。

「大丈夫。マジで気にした訳じゃないから」

そう言ってから、金髪のギロチンクロスは、笑みの質をからりと変えた。

「それより、ちょっと場所変えない? このままここで突っ立ってたら、2人して雪だるまになっちゃいそーだし」

そう言うと、ヴァレリーはくるりとオーアに背を向け、足を踏み出す。数歩進んだところで振り返り、笑みと共に、オーアを手招く。

「な?」

その誘いに、オーアは1つ瞬いた後、にっと笑った。

「おぅっ」

そうして、ぱたぱたと駆け寄ってきたハイプリーストの友人に、ヴァレリーは手を伸ばす。
未だしんしんと雪の降る中、オーアの頭、金色の髪がうっすら白く染まっているのに気付いたためだった。
軽く撫でるように、オーアに積もる雪を払えば、そこでオーアも気がついたらしい。
少々擽ったそうに笑う。そして、お返しとばかりに、オーアもヴァレリーへと手を伸ばす。
わちゃわちゃとじゃれ合うように、互いに積もる雪を払うが、しんしんと降り続ける雪の中だ。途中からキリが無くなるのは分かりきった事だった。
故に、あらかた払い終わった時点で、どちらともなく歩き出す。
楽しげに笑い合い、何てこと無い会話と共に雪を踏みしめる音が響く。
そんな2人の後ろには、くっきりと2つの足跡が続いていた。

fin

あとがき
はー……長かったっ!
何でこんな、長くなりました?? って書いた本人が1番ハテナ飛ばしてる。
論理ゲームとイメージ直感を混ぜたような時間軸パズルの結果、「あ、これ、呼び声前だ」ってなったので、この時点では、ヴァレリーさん、まだリーベさんとは知り合ってないのです。
もし、知り合いになってたら、もっと、オーアの慌て具合が変わっていたと思われる。

今回のお題、ヴァレオーやりたいなーから入ったので、ヴァレオーは確定。あと、この時期にこのお題やるなら、舞台はルティエ確定。できれば、いつぞや書いたおもちゃ工場の挿文に繋がる終わりに出来れば僥倖。
で、ここからダイスの女神さまにご協力いただいて
・ヴァレリーさんとオーアがルティエに来るのは1.一緒 2.バラバラ → 2.バラバラ
・オーアが1.招く 2.招かれる →2.招かれる

ここで、なんとなく、ヴァレリーさんは届けものでルティエに。オーアは迷子を連れて、ってゆーのがどこからか降ってくる。で、そういやそもそも、

・時間軸は1.恋人 2.友達 3.知り合い →2.友達
・先に目的地に着くのは1.オーアが先 2.ヴァレリーが先 3.同時 →1.オーアが先
と、ここまでやったとこで、何かふんわり振って来たので書き始めた感じでした。

や、でも、ホント、ヴァレオーが書きたい読みたい
から始まったのに、2人の絡みがほぼなくなったの、何ででしょーね???
どーしてこーなった?? ヴァレオー的には、ネタとシチュがよろしくなかったか……
ただ、今回の書いてて、ネタの種はいくつか収穫できたので、そういう意味では良かったし、幼女霊とオーアは書いてて楽しかったので、後悔は……一応、ない。あんまり、ない。
けど!! ヴァレオー読みたいって未練はめっちゃある! ので! これはリベンジ確定ですね……ヴァレリーさんについて、もうちょい、色々知りたみもある。好きなものとか、オーア以外の人間関係とか、些細なもの、何でも良いので、いくらでも知りたい。のに、何でも良すぎて逆に質問浮かばないっていうこのポンコツ具合……orz

それはともかく、以下、書きながら思ったことを徒然と。

オーアさあ、一応仮にも退魔班の人間で、且つ、不意打ちとはいえ、事前に最低限の守りもかけてて、なんで、意識と体の制御乗っ取られてんの?? しかも、故意ではなかった相手に。さらに言うなら、即座に、体の制御奪い返すのに成功してるし。これ、相手の記憶をオーアが見たことを踏まえると、オーア、あえて一旦諸々、相手に明け渡してない??? でも本人にそんな自覚ないな。変な癖でも付いてる??? かーらーの、ネタ種発掘はツイッタのネタ垢に放り込んでる。結論的にはまだしばらく塩漬けだけどね!!

オーアは幼女霊と五感を共有してる状態だから、その分、反応が鈍くなってる。が、本人にその自覚はないっていうね。取り憑かれ中、あと抜けてった後、瞬き多くなってるのとか、は実はそのせい。

家の前でばったりした時、夢現の時同様、オーアは言わないんだなー……と。一線引いているように見えて、あの時点で、中の人的にはもにょもにょしている。でもたぶんこれ、関係進むと変わってくる奴だ……! っても思ってる。今回は、ダイスの女神様のご意向で、友人段階の頃でかいたかーらーねー。もしこれ、恋人時間軸だったら、話してくれたと思うんだ。
とか考えてたら、恋人時間軸Verのシーンがぽやっとしたので、おまけ的にぺいっと。

そんな、儚い表情をしていた。
オーアらしからぬ表情だ。
それを目にし、スッとヴァレリーの瞳が細められ、鋭さを帯びる。
ヴァレリーは地を蹴る。己の存在を知らせるため、敢えて立てていた足音を消し、瞬きの間にオーアとの距離を詰めると、飛びつくようにして、オーアの首に右腕を回した。

「オ ー ア くーん? 無視はちょっと酷くねー?」
「おわっ!?」

冷たい。
オーアに飛びつき、触れて、ヴァレリーが真っ先に感じたのはそれだった。対して、驚いた声を上げたオーアは、目を白黒させた後、顔をのぞき込んでくるヴァレリーを見返す。
と、パッと嬉しそうな笑みを見せた。

「ヴァレリーじゃん。どしたんだ? こんなとこで」
「そーれはこっちのセリフなんだけど。声かけても気づいてくんないしさー」
「え、あ、ごめん。マジで気づいてなかった」

そう言うオーアは、一見いつも通りに見える。
けど。

「だから言ったんだよ。それはこっちのセリフ、って」
「なるなる。悪かったって。ちょっとぼーっとしててさ」

頬を掻くオーアに、ふーん、と声を返して。ヴァレリーは、耳打ちに切り替える。

『で、ホントのとこは? どーゆー状況?』

一呼吸置いて、続けてヴァレリーは耳打ちを送る。

『ちな、ここでウソついたら、後でお仕置きな?』

にこりと笑うヴァレリーだが、その瞳の奥は笑っていない。
それを見て取り、オーアは乾いた笑いを漏らす。

『なーんで分かるかなー』
『オーア風に言うなら、オーアがトクベツだからかなー』

敢えて軽い調子で紡いだにも関わらず、オーアはどこか気恥ずかし気に、視線を彷徨わせる。
すっかり冷え切り、白くなっている顔色に、少し赤みが戻ったような気がした。
正直なところ、今すぐにでもオーアを暖かいところへ連れて行き、その体を温めたい気持ちは強いが、それより、事情を聞く方が先決だ。
その代わり、せめてもと、ヴァレリーは左腕もオーアの胴へと回し、体温を分け与えるかのように抱きしめる。
けれど、オーアはそれを、己に対する拘束だと思ったらしい。
少々、拗ねたような声が返る。

『むー。そんな事しなくっても、逃げないし、ちゃんと話すってば。そもそも、隠す気もなかったし』

そう言って、オーアは1つ息をつく。
オーアの口元から、ふわりと広がった白が、空から舞い降りる雪に紛れ、空気に溶けて消えた後、オーアは言う。

『今な、ちょっと、取り憑かれ中』
『は?』

さらりと告げられた言葉は、到底許容出来るものでは無い。ヴァレリーの口から低い声が漏れたのは至極当然の事だった。
剣呑な目を向けるヴァレリー。その反応に、慌てたようにオーアは言う。

『あっ、でも大丈夫だから! 害は無い、ってか、良い子だし、こうなったのは、事故みたいなもんだからっ』
『オーアはそう言うけどさぁ。既にオーア、害受けてるんじゃないの? ここ、怪我しただろ。血が付いてる』

するりと首元を撫でると、オーアの体が小さく跳ねる。

『っ。あぁ、ちょっと、そこの白熊サンにじゃれつかれまして……少しトラブったのは確かだけど、ホント事故だから。ルティエの子なんだから、死因がサスカッチの可能性も考えとかなきゃだったんに、そこ抜けてた俺のミス』

小さく息を吐くオーア。その言葉に、内容に、ヴァレリーは目を丸くしていた。
ルティエの子。死因。サスカッチ。あんな表情で、この家を見ていたオーア。
思い当たることがあった。

『――まさかと思うんだけどさぁ。その子って、ここの家の子だったりする?』
『そうだけど……って、ここで家見てたら気付くか。うん。そゆ事。だから、大丈夫。もう少し、ここで景色眺めて満足したら、還る事になってるから。ホントは家の中まで連れてってやれれば良かったんだけど。赤の他人で、何の用事も無いからなぁ』

まぁ、それはこの子も、十分分かってくれてるから、ここから見るだけでいいって言ってくれてるんだけど。
そう言って、また、オーアの視線は温かな光を零す家の方へと向いてしまう。
ヴァレリーはそんなオーアを見る。
いつからここにいるのだろうか。抱きしめた体は相変わらず冷え切っているし、金色の髪の上には白く雪が降り積もっている。その一部が体温によって溶け、髪の外側を濡らし、濡れた髪は、このルティエの空気に晒され、ところどころ凍り付いてしまっている。
何より問題なのは、そんな状態にも関わらず、当の本人が、寒さを感じている様子が欠片も無い事だ。それは端から見て正常な状態とは言い難い。

(害意や悪気がなきゃいい、ってもんでもねーだろーに)

むしろ、悪気がない方が、質が悪い。
ヴァレリーは胸中でのみ呟き、息を吐く。
何にせよ。オーアをこのまま放ってはおけない。そして、そのための手札を、ヴァレリーは既に手にしていた。
情けは人のなんとやら。
以前聞いたことわざを思い出し、本当にその通りだと、しみじみ思う。

ヴァレリーはオーアを放すと、自身の目的地へと数歩進む。
そして、再び立ち止まる。オーアへと振り返り、声をかけた。

「オーア」

その呼びかけに、オーアの視線がヴァレリーの方を向く。
不思議そうに小首をかしげるオーアを、ヴァレリーは手招いた。

みたい、な……? あるぇ?
最初のイメージだと、ヴァレリーさんの反応、友人Verと大して変わらなくって、オーアがさらっと「今、取り憑かれ中」って言って、「はぁっ!?」ってヴァレリーさんがオーアに詰め寄る感じだったんだけどな???
なんか、書いてみたら、ああなった。
これさぁ……オーア、既に何度か、やらかしてるな?? だからこそ、こーゆー反応されてるのでは???
ヴァレリーさん、ホント、うちの子がご迷惑おかけしてます( ̄▽ ̄;)ホントスイマセン
割とねぇ、中の人的には、ヴァレリーさん大丈夫? オーアに愛想尽かしてない?? ってちょいちょい心配になる……(ぉぃ元凶
ちなみに、お仕置き。オーアに効くのはにっがいサプリメント飲ませるとかだろうなぁ、と思う中の人。恋人時間軸でお仕置きなんだから、年齢制限かかるようなのでも良さそうなもんなのに、ヴァレリーさんがやりそうで、オーアに効きそうなのが浮かばんのが正直なところ……むぅ、妄想レベル不足ですね、分かります。

まー、後々、最期の方で、オーア、ふわっと話してくれて、ちょっとほっとはした。
ちなみに、今回オーアがやったのは、例えるなら、「●●さんお久しぶりです。うんたらかんたら」っていう間違いメールを装ったスパムメールにしか見えないメールに「メアド間違えてますよ」って返信送った感じだから……親・友人に話したら、今回は本当に間違いメールだから良かったけど、そーゆー類いのメールはryってほぼ確定で小言貰うような系統の行動なんだよねぇ。


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使用素材: 幻想素材館Dream Fantasy様 Winter2

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