「ここなのだ!」

立ち並ぶ家々の1つ。その前で、少年は声を上げた。
少年の先導の元、一行がやって来たのは、街の西側に位置する住宅街だ。少年の言葉に、柚葉は1つ、瞬いた後、ふわりと柔らかな微笑みを浮かべて見せた。

「そうですか。……ありがとうございます。貴方のおかげで、本当に助かりました」

真摯に礼の言葉を紡がれ、少年はちょっと目を丸くした後、ふいっと視線を逸らし、照れたように頬を搔く。それを、微笑ましく見てから、柚葉はお守りを3つ、取り出した。それを目にし、軽く目を見張ったリーベの前で、柚葉は、それを少年へと手渡す。

「あちらのお兄さんとお姉さんと、面識がないという事は、昨日お守りと貰ってはいないのでしょう? 良くない所へ足を踏み入れていますし、ご両親と共に、持っていて下さいな」

そう言葉を添えれば、少年はパッと、顔を輝かせた。

「それ! お母さんがシンサツ受けててもらいに行けなかった、って言ってた奴なのだ!」

そう言えば、とオーアは思い出す。ドクターブンが患者がそわそわしていた、と言っていたな、と。おそらく、その患者の1人が、目の前の少年の母親だったのだろう。少年はお守りを受け取ると、お母さんに渡してくるのだ、と、もう、柚葉達には目もくれず、自宅なのだろう家の中へと駆け込んでいく。
それを見送って、リーベは1つ息をついた。

「昨日の夜、追加でお守り作って欲しい、って言われた時は何かと思ったけど、こーゆー事だったのね」

納得した、と言うアークビショップに、柚葉はふわり、と笑む。

『必要になる気がしたものですから。けれど、何に使うか、までは、あの少年と出会うまで分かりませんでしたけど』

そもそも、占ったわけでもないですし、ただの勘、もしくは予感ですから、と言う柚葉にリーベは、もう1つ息をつき、柚葉に合わせ、パーティ会話へと切り替える。

『柚ちゃんの場合、それを勘と言っていいのか、すごーく悩むとこなんだけど……』
『何の根拠も示せない以上、勘としか言いようがないと思いますよ』

そんな軽い、じゃれあいとも呼べそうな言い合いをやんわりと止めたのは、エドアルトだった。

『リーベさん、柚葉さん。何事もなく、すんなりあの子を帰せて、ほっとしたのは分かるけど、ここから、だよ』

柚葉が少年に家族の分も含めてお守りを渡したのは、彼らを案じたのも、もちろんある。が、好奇心旺盛な子供が、こちらへ興味を持ち、こっそりついてこよう等と考える前に、興味の矛先を逸らす狙いもあったことをエドアルトは察していた。故に、そう言葉を紡げば、リーベは、はっとして振り返り、エドアルトを見上げ、しゅんと眉を下げる。

『あ。ごめんなさい、エドアルトさん』
『ほっとしたのは俺もだから。それはいいんだけど……』

そこで言葉を止め、エドアルトは視線をちらりと横へ向ける。

『もう、先に行っちゃってる子がね……』

そう言ったエドアルトの視線の先。先程までそこに居たはずの、金髪の青年2人の姿が、いつの間にか消えていた。

『オーアちゃん!!?』

パーティ会話で響く女性の声に、小さく息をついて、金色の髪に、深緑の瞳のギロチンクロスは、民家の前に立つ友人を見やる。その視線に少々呆れの色が含まれてるのはご愛嬌だ。

「呼ばれてっぞー」
「別にいいだろ。すぐ追いついてくるって。そもそもの目的はこっちなんだし」

けろっと気負いなくそう返して、オーアは再度、民家の戸を叩き、すいませーん、と声を張る。一足先にここに来てすぐやった行為を、もう1度繰り返してからオーアは腕を組み、首を傾げた。

「……留守、か?」

それは困るな、とオーアは眉を寄せる。そんなオーアを見てから、ヴァレリーは、じっと、民家を見つめ、ゆるく首を振った。

「いや、……人の気配はするから、もう少ししたら出てくるか、単純にこっちに気づいてないか、そーじゃなかったら居留守だな」

ヴァレリーの言葉に、オーアは目を丸くして、おー、と声を漏らす。

「さっすが、すごいなー」
「そんなすごくもないだろー。冒険者やってると気配に聡くなるし。オーアだって、狩りの時とか、よく気が付くじゃんか」

それに、オーアはどこか気まずげに視線を逸らす。

「……いやー。ME効く相手なら、なんとなく分かるんだけど、他に関しては全然なんだよなー」

そう言って、誤魔化すように笑い声をあげるのと、2人の背後から、リーベ達が追いついてくるのと、目の前の扉が開いたのは、ほぼほぼ同時だった。

「はいはい。どちらさんだい?」

そう言って、家から出てきたのは、白いシャツに暗い茶のスカートを纏った老婆だった。白くなった髪を括り、しわの刻まれた顔で老婆は訪問者を出迎える。

「おばーさん、こんにちは。ちょっと、話を聞きたいんだけど……」
「おほほほ。何じゃい?」
「病院について、話が聞きたいんだけど」
「え? もうこれ以上食べられんよ。ご飯は食べたばっかりでなぁ」
「違くてっ、病院!」
「そうじゃない? そうかそうか。ワシも若い頃は町で評判の美人だったのじゃ」
「そーじゃなくてぇ……」

全く会話が噛み合わない事に、思わずオーアはがっくりと肩を落とす。そして、つい、軽く後ろを振り返り、縋るような目を向けた。

その、無言のヘルプに対し、リーベは、とてもとても良い笑顔を浮かべ、ぐっ、と親指を立てて見せた。意訳するまでもない。助ける気はないから、頑張れ、だ。追いついてきた時に、ちらりと見えた、少しだけ怒ったかのような不満げな様子など、微塵もない良い笑顔に、オーアは更に肩を落とす。なむ、と言わんばかりに、ヴァレリーがその肩をぽんぽん、と叩いた。
そして、その様子に、老婆も何か違うらしいと察したらしい。すまないねぇ、と声をかけてくる。

「大きい声で話してくれんかね」

それに、オーアは頷き返すと、軽く息を吸う。そして、

「病院に! ついて! 話を! 聞きたいんだけどー!」

しっかりと声を張ったそれは、ようやく老婆に届いたらしい。老婆はうむうむと頷き返す。

「病院の事じゃと? お~、そうかそうか、病院か。……ん? 病院?」

自分で口にして、ようやく言葉が頭に浸透してきたらしく、そう自問するように声を零してから、不意に老婆はカッ! と目を見開いた。

「病院じゃと!?」

唐突に変貌した老婆の表情と声色に、驚いたらしい。オーアは、目をまん丸にしつつも、ぎこちなく頷いて見せた。

「お、おぅ……」
「ああああの病院は呪われておる! とても悪いモノが憑りついておるのじゃあ! ワシの娘もヤツに連れていかれてしまったのじゃ。けして……けして、近寄ってはならぬぞ」

鬼気迫る表情で言い募る老婆を、オーアは真剣な瞳で見返した。

「それを、詳しく聞かせて欲しい。呪われてるって、どういう事だ?」
「ワシの娘は、命を落とす程の病ではなかった。ただの風邪だったのじゃ……じゃが、どういう訳か、あの病院で治療を受けて、余計に悪くなっていったのじゃ。そういう者は他にもいた。やはり……街の古木を切って、病院を建築したのが良くなかったに違いない。病院がおかしいと気付いた者は指導者様に陳情にも行ったのじゃ。だが、何もしてくれなかった……そうこうしているうちに、入院している人達が次々と亡くなったと伝えられ、事故が起きたと、病院が閉鎖されたのじゃ」

『……ほぅ。陳情があったのにも関わらず、こうなるまで放置していた訳ですか……』
『柚ちゃん柚ちゃん、気持ちは分かるけど、どうどうっ』

PT会話で聞こえてくる不穏な響きの声を敢えて意識の外へと追いやって、オーアは老婆を見る。今の話は、ドクターブンから聞いたそれとも一致する。なるほどな、と思う一方で、未だ出てきていない、肝心な部分を引っ張り出すために、オーアは口を開いた。

「ヤツ、って何だ? これと――いや、だから、これを、刺した?」
「ヤツはヤツじゃ! ワシは見たのじゃ……ん? その棒は……」

オーアが差し出した何本かの棒を見て、老婆は口を止め、まじまじとそれを見る。そして、一拍の間の後、先程以上に目を見開いた。

「え、ええええええっ!! き、き、キサマ!! なんちゅー事をしてくれたんじゃ! それは、ヤツを封じるためのお守りだったのに! それを抜いたら、またヤツが悪さを始めてしまう」

そう叫び、老婆は、ぐっ、と手を強く握りしめる。

「ワシは見たのじゃ! 病院の2階、窓に映ったヤツの影を。おそらく、ヤツは患者達に悪夢を見せ、自分の糧にしていたに違いない! だというのに!!」
「分かったっ! 大丈夫だからっっ! 大丈夫なのを選んで抜いてきてるし、ちゃんとこれも戻すから!!」

老婆の剣幕に、慌ててオーアはそう声を上げる。眦を吊り上げ、怒りの声を上げていた老婆は、戻す、という単語に、ようやく落ち着きを取り戻す。

「必ず! 必ずじゃぞ!!」
「分かってる、分かってるからっっ! ……で、後、他に、ヤツについて知ってる事はある?」
「ヤツはヤツじゃ。あれが悪さをし、ワシの娘や患者の命を……」

老婆も詳しい事は分からないらしい。新しい情報はなく、老婆の話がループする気配を察知し、オーアはそこで、遮るように声を挟む。

「ん。分かった。あと、このお守り、誰が作ったものなんだ? おばあさんが作ったのか?」
「あぁ、これは、街のシャーマンに作って貰ったものじゃ。シャーマンは街の北の方に居るはずじゃ。それほど有名ではないが、あのシャーマンの作るお守りの効果は確かじゃぞ」
「なるほど……」

ふむふむと頷いてから、オーアは老婆へ礼を紡ぎ、軽く頭を下げてから、ヴァレリーと共に、少し離れた所に集った仲間達の元へと戻る。

『……って感じみたいだけど』
『んー……元凶については、情報無しかぁ』

少々残念そうに息を吐くリーベに、エドアルトは口を開く。

『けど、2階、悪夢。ドクターの話と重複してるからこそ、鍵になりそうなものは見えてきているな』
『えぇ。そもそも、こちらへ来たのは、あの子供の保護と、あの結界の意図を確かめるため。そして、アレの動きを見るためでしたから。それらは十分達成されています』
『なら、今度こそ病院へ、か? 俺たちが刺さってるの抜いて、解除したから、もう入れるんだろ?』

ヴァレリーの言葉にリーベは頷く。

『ん。入れるようになってるはずよ。向こうもそれは気付いたはず。これから、どう出てくるか、かしら』

ミルクティー色の瞳にどこか好戦的な光を灯らせ、リーベは言葉を紡ぐ。
そんなリーベを見、次いで柚葉を見、考え込むオーアに気付き、ヴァレリーは金の髪を揺らして口を開いた。

『オーア? どしたんだ?』
『あ、ヴァレリー。……んっと、……皆は、あのお守り作ったシャーマンの方には、話、聞きに行かなくていい、って思ってる感じか?』

ヴァレリーに促され、問いかけたオーアの言葉に、リーベはきょとん、と目を丸くする。

『えぇ……そうね。お婆さんの所に話を聞きに来たのは、あの男の子の保護と避難が半分。お婆さんの結界、あれはちゃんとした知識が無く、適当にやってああなってたのか、それとも、何か意図があってワザとああしていたのかを確かめるためだもの。後者なら、何か不味い可能性もあったし。まぁ、話聞いて、確実に前者だなって分かったし、あまり、アレを放置したくないしね』
『ん。それは、分かる。レンも心配だしな……でも』

どこかそわそわと、落ち着かない様子で視線を泳がせたオーアに、柚葉は軽く目を細める。

『けれど、気になる、と』
『ん……何となく、行った方が良いような気がして……でも、余計な事してる場合じゃないしなぁ……』

自分に言い聞かせるようにそう言って頭を搔くオーアに、柚葉は口を開く。

『自分が行くべきだと感じたのなら、そうするべきだと思いますわ。その手の直感は大事にした方が良いかと』

柚葉の言葉にオーアは目を丸くする。

『そ、れは……分かるけど、でも、柚葉さんやリーベさんは何も感じてないんだろ?』
『貴方にとって必要なものと、私達にとって必要なものが同じとは限りませんから。他人に合わせるのも確かに大切ですが、それによって大事な事を見落としてしまってはダメですよ』
『ん。……ただ、でも、なら……う~~ん……』

柚葉の言葉に、オーアは眉を寄せ、悩む。その理由が分かった気がして、エドアルトは口を開いた。

『……なら、もう1度、2手に別れようか? オーアが迷ってるのは、向こうも気になるからだろう?』
『確かに……ん。じゃあ、俺、さくっとシャーマンのとこ、行ってみるから皆は先に病院に戻って貰ってもいいか?』
『オーアちゃんストップ。2手に別れるのは良いけど、単独行動は禁止』

エドアルトの提案に、なるほど、と声を漏らし、そう言ったオーアにリーベから待ったがかかる。その声に、オーアは不満げな顔を見せた。

『何で。俺行くの街中だし、そっちの方が明らかに危ないだろ。2手に別れるならこっちに人数割くのは悪手だと思うんだけど』

その主張に、リーベは首を振る。

『何があるか分からないから、PTを組んでたとしても1人になるのは避けるべきよ。オーアちゃんなら大丈夫なのは分かってるけど、この街悪霊が出るし……それに、単独行動して、実行犯の方が来ないとも限らないからね。オーアちゃんなら騙される事はないでしょう。けど、その方が手っ取り早そうだったから、とか言って、事後報告で、ワザと相手の誘いに乗りかねないでしょ』
『そっ……』

じとりとした目で言われた言葉に、オーアは反射的に声を上げかけてから、沈黙し、少し間を置いてから、そろーっと、視線を逸らした。

『……やるかも、って事か』
『あぁ、そういう所は似ている訳ですか』

オーアの反応に、リーベの危惧が十二分にあり得るなのだと理解した他の面々は、納得の息を吐く。と、同時に、ヴァレリーが軽く手を上げた。

『んじゃ、俺がオーアと行くよ』
『ヴァレリー……もー、1人でも大丈夫って言ってんのに』
『いや、今の反応の後、それはないっしょ。それよか、ここでどーするあーするって話してる方が、時間の無駄じゃん?』

笑って言うギロチンクロスに、思わず、確かに……と呟いて、オーアは1つ、深々と息を落とした。

『はぁぁ。分かった。2人でさくっと行ってくる。……気をつけてな』

真剣な声色でそう紡いで、オーアとヴァレリーは街の北へと駆けて行ったのだった。

「はー……ありがとな。ついてきてくれて」

町の北へと向かいつつ、オーアは深々と息を吐き、ヴァレリーに礼を言う。

「どーいたしまして。ってか、1人いなくなってる、ってのに単独行動は悪手だろー。どう考えても」
「う……いや、だってさー。病院、入れるようになってる、って事は、戻ったら、確実に中行くだろ? 魔物、居るのは分かってる訳でさ。でも、数とか、強さは分かんない訳だし、戦力は多い方がいいじゃんか。一緒に狩り行ってるし、めっちゃお世話になってるから、あんたの強さはよーく分かってるし、俺の方に来て貰うの、もったいないなー、ってのは、ぶっちゃけ今も思ってるもん」
「はは、そりゃどーも」

そんな事を言うオーアに、ヴァレリーは軽く笑みを見せる。実力を認められ、惜しげも無い信頼を向けられるのは悪い気はしない。と同時に、ふと、浮かんだ疑問もヴァレリーは舌に乗せた。

「でも、1つ素朴な疑問なんだけどさぁ」
「ん?」
「合流する時、どうするつもりだったんだ? 魔物、居るのは分かってたんだろ?」
「あ」

考えてなかったらしい。
間の抜けた声を上げたオーアに、ヴァレリーは目を瞬かせた後、軽く吹き出した。

「ダメじゃん~~」
「うぅ、うっさいっ。ちょ、ちょっと忘れてただけだしっっ」

茶化すヴァレリーに、そんな言い訳を口にしてから、オーアはこっそりと息をつく。合流時の事は、素で頭になかったため、軽口の延長のような形で茶化してくれたのは、むしろありがたかった。もしこれが、リーベであったならば、ガチトーンのお説教になった可能性が非常に高い事を思えば、尚更である。

「あー、でも確かに、それ考えると、来て貰って、手伝って貰って良かったわ、ホントにありがとな」
「今さっき、それ聞いたばっかだって。ま、向こうも気になるんだったら、さっさと用事、済ましちゃおうぜ」

にっ、と笑って言ってヴァレリーに、オーアも笑って、おぅ、と声を返した。

街の北へと向かっていくと、綺麗に石畳で舗装された広場のような空間に辿り着く。街の人々の憩いの場ともなっているのか、それなりに人の姿も多く見受けられた。

「んっと、街の北、ってたぶん、この辺だとは思うんだけど……」

そんな事を呟きながら、辺りを見回しつつ、歩く。と、その時だった。

「うむ……感じる……」

そんな声が聞こえたのは。
反射的に振り返り、視線を向ければ、広場の北側。その隅、木陰の下に小柄な影があった。それは、老婆だった。加齢のためか、腰が曲がった老婆は、真っ直ぐにオーアを見上げていた。その底知れぬ深い色の瞳と目が合い、オーアは直感的に理解した。彼女がシャーマンなのだと。ヴァレリーとも視線を交わし、軽くうなずき合うと、2人は緑の服を身に纏ったシャーマンの元へと歩み寄る。

「あの――」

声をかけようとしたオーアを遮り、シャーマンは口を開いた。

「……何か、不吉な気配を、お主から感じる……」
「不吉な気配? それって――」
「何も言わなくて良い。口に出せば、余計な縁を結ぶことにもなろう」

そう言ってから、シャーマンは徐ろに、己の荷から1枚の札を取り出すと、オーアへと差し出した。

「これが必要になるじゃろう。この札はな、強い力を封じ込める事が出来るのじゃ。極めて強力な効果を持つ故、使い方を誤れば災いを招くじゃろう。……だが、お主には必要なものじゃ、持っていくがいい。大丈夫じゃ。お金は必要ない。これは、この街の因果なのじゃ……」
「あ、ありがとう……」

少々困惑しつつも、それを受け取り、礼を紡いだオーアに、シャーマンは1つ頷くと、徐ろに口を開く。

「時にお主……捜し物は得意か?」

唐突な問いかけに、オーアはきょとりと目を丸くする。

「え? ……どーだろう……?」

つい、小首を傾げ、素直な返答を零したハイプリーストに、シャーマンはふむ、と息を漏らした。

「ならば、これも必要となろう……」

そう言って、シャーマンが差し出してきたのは、手首に通すと丁度良さそうな長さの輪になった紐と、それに通された小さな鈴だった。シャーマンの手の動きに合わせ、紐が、鈴が揺れる。けれど、鈴は何の音も立てる事はなく、ただただ静かに、受け取られるのを待っていた。

「あ、りがとう……?」

反射的に受け取り、礼を紡ぐが、札以上に意味の分からないものに、つい、声に困惑が表れてしまう。そんな反応なのにも関わらず、シャーマンは、満足げに1つ頷くと、用は済んだとばかりに歩き出した。

「え、ちょっ!?」

話を聞きに来たはずなのに、何も聞けないまま、去って行こうとするシャーマン。慌ててオーアは声を上げる。その声に、シャーマンはぴたり、と足を止めた。

「用は済んでいるはずじゃ。……それに、急いだ方が良いじゃろう」

背を向けたまま、そう言って、シャーマンは再び歩き出す。その背を追いかけようか、一瞬迷い……オーアは、ぐっと、手を握りしめ、シャーマンへ背を向けた。

「……行こう」
「良いのか?」
「ん。聞けなかったのは残念ではあるけど、確かに、聞きに行かなきゃ行けない、って予感はもう、収まってるんだ。それに、急いだ方が良い、ってのが気になる」

その対象は、レンなのか、それとも、先に病院へと向かった彼女達なのか。ひたり、と不安が忍び寄るのを抑えつつ、オーアそう口にしたその時だった。2人の脳裏にリーベの声が響く。

『オーアちゃんとヴァレリーくんに報告ー』

パーティ会話を通じて聞こえたその声に、オーアとヴァレリーは視線を交わす。

『どした?』
『何かあった?』
『ん。今のところはまだ、想定外な事はなしよ。病院内に入ったけど、まぁ、案の定って感じだし。あぁ、でも、オーアちゃんにとって、多少の朗報になりそうなのは、今のとこ、効かないのは居なさそう、ってとこかしら?』
『へぇ……』

リーベからの情報に、オーアは小さく口の端を上げる。そりゃ、確かに朗報だ、と呟いた所で、続けられたアークビショップの言葉に、オーアは目を丸くする事になる。

『と言っても、実際にME使った訳じゃないから、絶対じゃないけどね』
『へ? ME使ってねぇの?』

思わず間の抜けた声を漏らし、疑問を口にすれば、使ってないから私が1番会話する余裕があるのよねぇ、と軽い声が返る。

『――って、軽口は置いておいて、真面目な話。今、アレも一緒なのよ。あんまり手の内を見せたくないし、もしも途中で本性現したとき、私が対応しやすいように支援に徹してるって訳。幸いにも、柚ちゃんにもアドアルトさんにも、それが出来るくらいの余裕はあるしね。支援って言っても、エドアルトさんも柚ちゃんも頼りになるからかなり楽させてもらってるけど』

そんな事を言う、リーベに、オーアは、なるほど、と返す。と、一拍置いて、エドアルトの声が響いた。

『リーベさんの見立て通り、今のところ、相対した魔物は皆、悪魔で間違いないよ。盾の切り替えを何度か試したけど、悪魔盾が効果を発揮してるから』
『あ、なるほど。そういう確認の仕方もあるな』

納得の声を上げたオーアに、柚葉が問いかける。

『そちらは、どのような感じですか?』
『あー、今から病院に向かうとこだな』

そう答えたヴァレリーに、リーベは意外そうな声を返す。

『あら、早い。なら、順調に話は聞けたのね』
『あー……それが、う~ん、話は全く。何も聞けてないんだけど……目的は、達成出来た気がする』
『んん?』
『なんか、お札っぽいもの、貰ってたぞ』
『なるほど、必要なものは得られた、という訳ですか』

ヴァレリーが添えた言葉に、柚葉は納得した声を漏らす。病院組とそんなやりとりを交わしながら、オーアは自分とヴァレリーに、基本支援であるブレッシングと速度増加をかける。狩り中、よく行われるそれの意図など、察する間でもない。ヴァレリーはオーアへ頷きを返した。

「確かに。話なら移動しながらでも問題ないな。行くか」
「おぅ!」

ヴァレリーの言葉に大きく頷いて、オーアは、たっと足を踏み出した。

――ちりん、とどこかで小さな鈴の音が、聞こえた気がした。

*****

時は少し遡る。

「あ。おかえりなさい! どうでした? おばあさんには会えましたか?」

病院へと戻ってきた3人に気付いたラズは、邪気のない笑顔を浮かべ、たっと、駈け寄ってきた。

「ただいま。足の方はもういいのかい?」
「はい。休んだら、大分良くなりました」
「そっか。お婆さんには会えたわよ。あれ、何か、悪いモノが病院から出てこないようにするおまじないなんだって」

わざとふんわりぼかして、リーベはそう説明する。それを、ふーん、とあまり興味のない様子で効いてから、ラズはパッと笑い、両の手を合わせた。

「あ。そうそう、聞いて下さいっ。皆さんに、おばあさんの所へ行ってもらっている間に、もしかしたら、って思って、扉を開けてみたら、開いたんですよ!」

嬉しそうに声を上げ、ラズは続けて口を開く。

「足の痛みも治ってきたので、待ってる間に入ってみましたが、階段が封鎖されていて、2階には行けませんでした」

そう言って、ラズは残念そうに息を落とす。

「へぇ……2階への階段が封鎖、ねぇ……」
「まぁ、病院が閉鎖された原因は、2階から発生したらしい、って話もあったから、不思議ではない、かな?」

ぽたり、と紙にインクを落としたかのような声色で、リーベは呟く。そんな彼女の言葉をフォローするかのように、エドアルトは次いで言葉を紡いだ。
2人の言葉を聞いているのか、いないのか。ラズはただ、もう1度息を落とすと、3人を見、口を開いた。

「とりあえず、中に入りましょうか。2階に行けなければ、意味はないのですけど」

どこかつまらなさそうに付け加えられた呟き。
何故、2階に行けなければ意味が無いのか。何も知らなければ、出てくるであろう疑問を舌に乗せるか。エドアルトは一瞬迷う。が、余計な刺激を与えるのは良くないだろうと判じ、にこり、と笑みを浮かべて見せた。

「そうだね。行こうか」

病院の扉の前に立つ。
固く閉ざされた木製の扉。それに手をかけ、力を込めれば、先程は何だったのかと思う程、あっさりと、扉が開く。瞬間、その隙間から漏れ出てくる禍々しい異様な空気に、エドアルトは思わず顔を顰める。

――扉を開ければ、一目瞭然になるかと。

始めに病院に着いた時、柚葉が口にしていた言葉を思い出す。確かにその通りだった、と納得しつつ、そのまま扉を大きく開け放つ。そうして見えた病院の内部。まず思ったのは、暗いな。だった。扉は開け放たれ、そこから光が差し込んでいるはずなのに、やけに暗く感じた。そして、そんな暗い暗い病院の中を、多くの魔物達が徘徊しているのが、ここからでも目に出来た。ダンジョン内であれば、何も思う事のない光景だが、ここは街中である。それを踏まえれば、異常でしかない光景が広がっていた。
だというのに、そんなものなど、全く見えていないかのように、ラズは、軽い足取りでエドアルトの脇をすり抜け、病院内へと一歩、足を踏み入れ、くるりと振り返った。

「さぁ、行きましょう? ……どうかしたんですか?」

不思議そうなその表情に、何と言うべきか、迷った。
その間に、同じようにエドアルトの脇をすり抜け、彼の前に立ったアークビショップの女性が、口を開く。

「ねぇ。こんな所に1人で入って……どうして無事なの? こんなに、魔物がいるというのに」

疑念の滲むその声に、反射的にエドアルトはリーベを見る。そんな事を問いかけて良いのか、と言いたげな視線をきっぱりと無視し、リーベは真っ直ぐに、ラズを見る。そのミルクティー色の瞳を見返し、ラズはぱちり、と目を瞬かせた。

「え? だって、襲われなかったですから。最初に扉を開けた時は、さすがにびっくりして、慌てて逃げましたけど。でも、襲ってこないなら、ジェジェリンといっしょかな、と思って。看護師をするなら、胆力も必要ですから!」

ぐっと、拳を握って見せるラズの言い分は、何も知らなければ、十分納得出来るものだろう。故に、リーベは、1つ息を吐き、なるほどね、と声を零す。

「いくら襲ってこないとはいえ、こんな所に1人で入って行くなんて、すごいわね」

そう言って、笑いかければ、ラズはそんな事ないですよ~、と照れたように笑い返す。

「変な事で時間取っちゃってごめんなさいね? じゃあ、行きましょうか」
「はいっ。さっき私が見てきたところ、階段まで行ってみましょう。皆で見れば、何か2階に行く良い方法が見つかるかもしれません!」

そう言ったラズに頷いて、そして、3人で軽く視線を交わし合った後、皆揃って、病院内へと足を踏み入れたのだった。

「っ、はぁっ!」

鋭く槍を繰り出し、女性陣へと向かっていこうとしたマナナンガルの注意を引きつける。

「セイフティウォールっ」
「紅炎華!」

そのまま槍を振るい、その他複数の魔物の注意を引きつけるエドアルトの足元から立ち上るのは、薄赤の淡い光の柱だ。と、同時に、柚葉の作り出した炎がマナナンガルへと降り注ぐ。

「クレメンティア、カントキャンディダス、プラエファティオ! ……どこが、全然襲ってこないってぇっ?!」

支援魔法のかけ直しを行ってから、つい零れた恨み言に、ラズは困ったように首を竦めた。

「だ、だって、私は本当に襲われなかったし」

言い訳のようにそう言ってから、ふと、ラズは、何かに気付いたかのように、目を丸くし、声を零す。

「――あ。そういえば、病院の周りで見つけたお守り、1つ、持ったままだったから……もしかしたら、それで襲われなかったのかも」
「あー……ナルホドね」

納得した風のリーベ。それを見て、ほ、とラズは息を吐く。ついでに、思いついた事を舌に乗せた。

「いっその事、私、1人で先に階段の方に行ってましょうか? たぶん、私1人なら大丈夫じゃないかと思いますし」
「っ、オラティオ、ジュディックス! ……ちょっと迷うけど、もし、途中でお守りの効果が切れたら大変だし、一緒に居た方が良いと思うわ」

魔物の対応をしながら、リーベはラズの申し出をやんわりと却下する。

病院に入った直後。ギッ、と床の軋む音を合図に、ラズは無害だと評した魔物達が一斉に襲いかかってきたのだ。それを、エドアルトが引きつけつつも、攻勢に回り、柚葉が忍術で、1体1体確実に仕留めていく。そして、リーベが2人のサポートに回る形で、4人はゆっくりと病院内を進んでいた。
エドアルトの槍が、チャナックを貫き、倒れれば、この付近の魔物は、とりあえず、一掃出来たらしい。訪れた小休止に、一行はほっと息をつく。

「ディボーション。――3人とも、大丈夫かい?」

エドアルトの体から、光の線が延び、柚葉、リーベへと繋がる。
ディボーション。対象のダメージを肩代わりするスキルである。それを使うのが、リーベと柚葉のみなのは、これをかけられる条件が、相手が冒険者で且つ、パーティを組み、更に力量が近い者でなければならない、という制約があるためだ。
まぁ、ラズの正体を知っている以上、もしもそんな制約がなかったとしても、ラズへのディボーションは、何かしらの理由をつけ、リーベが止めていただろうが。
リーベがマグニフィカートを唱える。その隣では、柚葉が霊符から火の霊を召喚していた。細い指に挟まれた符が一瞬で燃え上がり、ふわり、と赤い光の玉となって柚葉の周りを漂う。
そんな光景を見て、ラズは首を傾げた。

「……皆さんが、魔物に襲われるのって、目立つせいもあるんじゃ……?」

確かに。
外からの光が入ってこないのもあり、再三であるが、病院内は酷く暗い。そんな中での、ディボーションの光や、柚葉の周りを漂う赤の光は非常に目立つ。ラズが言う事も最もだ。
けれど、リーベは1つ息を吐いて反論する。

「確かに、言いたいことは分かるし、一理あるとは思うわ。けど、暗さで不意打ちを受ける方が怖いからね」

そう言ってから、リーベはルアフを唱え、青白い光を呼び出す。隠密状態になる魔物はいなさそうだったため、これは、単純に灯りとしてのものだ。

「というか、灯りもなしに、よく歩けたわよね、貴方」
「私、割と夜目は利く方なので!」

にっこりと笑ってそう言ってから、ラズは、あっちです! と、道を指し示す。
その声に従い、一行が歩き始める中、リーベはパーティ会話で声を送った。

『オーアちゃんとヴァレリー君に報告ー』

唐突に紡がれた声に、柚葉とエドアルトは思わず目を瞬かせる。が、少し離れた所から、こちらへと向かってくる魔物の姿に気付き、短い休息だったと思いつつも、そちらへと意識を向ける。

『どした?』
『何かあった?』

少しの間を置いて、返ってきた青年2人の声に、リーベは必要な支援スキルを唱えつつも、声を送る。

『ん。今のところはまだ、想定外な事はなしよ。病院内に入ったけど、まぁ、案の定って感じだし』

そう言ってから、ついでとばかりに声を送る。

『あぁ、でも、オーアちゃんにとって、多少の朗報になりそうなのは、今のとこ、効かないのは居なさそう、ってとこかしら? ……と言っても、実際にME使った訳じゃないから、絶対じゃないけど』

そう言えば、へ、と間の抜けたオーアの声が脳裏に響く。

『ME使ってねぇの?』
『使ってないから、私が1番会話する余裕があるのよねぇ~。って、軽口は置いておいて、真面目な話。今、アレも一緒なのよ。あんまり手の内を見せたくないし、もしも途中で本性現したとき、私が対応しやすいように支援に徹してるって訳。幸いにも、柚ちゃんにもアドアルトさんにも、それが出来るくらいの余裕はあるしね』
『なるほど』

オーアの漏らした納得の声を聞きながら、リーベの瞳に、エドアルトが槍を振るう姿が映る。

「オーバーブランド!」

前方から来た魔物を複数纏めてなぎ払う。エドアルトへと意識が向いた魔物達の攻撃を受け流しつつ、緑髪のロイヤルガードもパーティ会話に口を挟んだ。

『リーベさんの見立て通り、今のところ、相対した魔物は悪魔族で間違いないよ。盾の切り替えを何度か試したけど、悪魔盾が効果を発揮してるから』
『あー、なるほど。そういう確認の仕方もあるな』
「レックスエーテルナ」

そんな声を聞きながら、レックスエーテルナをワクワクへとあければ、即座に、それへと柚葉が紅炎華を叩き込む。

『そちらは、どのような感じですか?』

ほぼ同時に、そう柚葉が声を送れば、オーアが返したのは、今から病院へと向かうという言葉。それに、リーベは目を瞬かせた。

『あら、早い。なら、順調に話は聞けたのね』

そう言えば、何故かオーアからは、曖昧な言葉が返る。

『あー……それが、う~ん、話は全く。何も聞けてないんだけど……目的は、達成出来た気がする』
『んん?』

傍から聞けば、矛盾している言葉に、つい、困惑の混じった声が漏れる。と、補足するように響くのはヴァレリーの声だ。

『なんか、お札っぽいもの、貰ってたぞ』

その言葉に、納得したらしい。柚葉はなるほど、と声を零す。

『必要なものは得られた、という訳ですか』
『オーアちゃんに、必要なもの、か。効果は分かるの?』

そう問いかけながら、気付く。リーベの背後から新たなワクワクがこちらへと向かってきている事に。軽く視線を向けてから、柚葉やエドアルトの行動を阻害しないように足を踏み出す。エドアルトの方へと歩けば当然、ワクワクもやってくる。

『ん。封印系の符だな。俺は、こんなの作れないし、術も、事前準備なしで、ここまで強いのは出来ないから、かなりありがたい』
『あー、そっか。あの辺は、アークビショップになってから、閲覧許可出るもんなぁ……』

オーアちゃんに必要って、そういう事かぁ、と納得するリーベの斜め上を槍が通り過ぎ、ワクワクへと突き刺さる。受けた痛みに、ワクワクの視線がその槍の使い手へと向く。刹那、響く、硬質な音。振り下ろされるワクワクの爪を盾でいなすエドアルト。リーベは闇夜に紛れる猫のようにするりと、その場から離れる。刹那、柚葉の視線から、次に彼女が狙う相手を判断。

「レックスエーテルナ」

マンククーラムへと降り注ぐ剣を模した白い光。間髪を入れず降り注ぐ炎。
その炎に燃やし尽くされ、マンククーラムが地に伏せる頃には、リーベは適切な位置へと戻っていた。
そのまま、エドアルトへと襲いかかるワクワクへと、レックスエーテルナを唱える。少し間を置いて、エドアルトと柚葉の戦う姿を目にしながら、支援魔法をかけ直す。
そうして、この付近の魔物を一掃した後、小さく息を吐いて、リーベは、再びパーティ会話に声を乗せた。

『――そうそう、もう1つ報告事項。病院入って、すぐの所にね、レンくんの冒険者証が落ちてたわ。留め具が外れた状態でね』

小さく押し殺したような声が、聞こえた気がした。

『それは……壊れた訳じゃなかった、って事だよな』
『えぇ』

肯定する。病院の入り口に居た魔物達を一掃した後、ポツン、と取り残されたかのように、床に落ちていたそれ。ラズの目を盗み、拾い上げると、魔物に踏まれた跡のような汚れこそ付いていたものの、どこも壊れた様子はなかった。
冒険者証は、冒険者が冒険者として活動する際、着用義務がある。――耳打ちやパーティ結成などを行うには冒険者証が必要であるため、着用義務がなくとも、冒険者にとっては必需品であるが――つまり、狩りに付けていく事を前提としている。そのため、身につけるのがどのような形であっても、冒険者証は非常に丈夫で外れにくいよう作られている。にも関わらず、壊れた以外の理由で冒険者証が落ちていたなら、それは、誰かに外されたか、自ら外したかのどちらかだ。そして、その外れにくさ故に、冒険者証を外すにはコツがいる。外し慣れていなければ、スムーズに外す事は出来ない。となれば、レンが自らそれを外した可能性が高い事を示していた。となると、何故、何のために、という疑問が浮かぶわけだが……

『外さなければならない状況、っていうと、パーティ会話を察知された可能性、かしらね。侵蝕を受けているならあり得る話だし。外した冒険者証をわざわざ落としていったのは、自分がここに居る、って示すため。っていうのが1番可能性が高くて楽観的な推測かしら。まぁ、実行犯に取られ捨てられた可能性も当然あるんだけど』
『冒険者が相手なら分かるけど、今回は違うだろ? あり得んの?』

不思議そうな声で問うヴァレリー。

『ふふふ~。あり得るのよねぇ、それが。冒険者を襲うことになれた、知能の高い、小賢しい奴だったりすると』

うふふ~、と控えめに零れる笑い声。穏やかなはずの声色に反して、感じるのは、ぞくりとした怖気だ。目一杯の殺意と敵意の籠ったそれに、心当たりしかないオーアから、窘める声が響く。

『リーベさん、リーベさん、どうどう。ってか、もしそうなら、相手、初犯じゃないって事になるだろ。アレらは、大体取り逃がした事があって、学習した場合が殆どなんだから。もしくは、元冒険者か、だけど。どっちにしても、外からの人をめちゃくそ警戒していたここじゃあ、その可能性は低いだろ』
『低いのは当然分かってるわよ。でも、ないとは言い切れない以上、頭にメモしておくのは必要でしょ?』
『ん。まぁな』

軽い肯定。それとほぼ同時にラズの声が病院の廊下に反響する。

「あ! そこの角を右です!」

闇の中、ぼんやりと浮かび上がる十字路を曲がり、少し歩けば確かに、じんわりと闇から滲み出るように、暗い暗い闇の中、しん、と佇む階段の姿が見えてくる。どうやら、今現在は、この付近に魔物はいないようで、リーベは小さく息をつく。と、階段へと歩みを進め、その一歩手前で立ち止まる。軽く視線を足元へと落とせば、ルアフの青白い光に照らされ、床の木目がよく見えた。少し、視線を上げていけば、小さな立て札。その後ろに段差、もとい、階段が続いており、上へ行けば行くほど、――高原から離れていくのだから当然ではあるが――薄暗くなり、闇の中へと消えていく。
なんとなしに、その様を眺めてから、リーベは一歩、足を踏み出す。
こつん。
靴先に硬いものが当たる感覚。

(階段の封鎖は人にも有効、ね)

声には出さずに呟いて、改めてリーベは階段前にある小さな立て札のようなものへと視線を向けた。ルアフの光に照らされ、小さな影を落とすそれは、一見すれば、先程、金髪の青年2人が病院の周りから引き抜いてきた棒と似ている。が、こちらの方が二回り程大きく、描かれている紋様も複雑だ。それに――
リーベは、その立て札の根本に注目する。
立て札は、床に、刺さっていた。といっても、床に穴を開けている訳ではなく、細く尖った先端を床板と床板の僅かな隙間に差し込むようにしてあった。そんな、軽く、浅く、どうにか突き刺さっている風であるというのに、立て札は、微塵も揺らぐことなく、ぴしり、と直立している。まるで、しっかり地面に根付いた大樹の如し、だ。

「なるほどね」

納得の呟き。それを落としてから、リーベは振り返る。ひた、と見据えるのは先程ここへ来たという看護師だ。

「ねぇ、さっき、ここ見て来た、って言ってたわよね?」
「あ、はいっ」
「これ。その時からあった?」

問いかけたリーベに、ラズはこくりと頷いた。

「ありました。なんか、気味が悪かったので、近づきませんでしたけど」

ちらりと下がったラズの視線の先と、立て札がある位置がズレていない事を確認して、リーベはひっそりと息を吐く。

(これは見えてる、と。まぁ、確かに、しっかり効果出てるなら、わざわざ隠す意味はないものね)

胸中でのみ、そう呟いて、口では確かに、とラズの言葉に頷いて見せる。

「これ、ちょっと床板の隙間に挟まってる、って感じで、いつ倒れてもおかしくないように見えるのに、実際はびくともしないんだもの。ちょっと、不気味よね」

何も知らなければ、思うであろう事を舌に乗せれば、ラズは何度も大きく頷く。

「ですよね!! それになんだか、不吉な気配もしますし……」

眉を下げ、不安そうに言ってから、何か思いついたのか、ラズは、はっと、顔を上げる。

「そうだ! 不吉な気配がするあれも、たぶん、お守りですよね? なら、病院の周りにお守りを置いていたおばあさんなら、何か知ってるかもしれません!」

ぱちんっ、と両手を叩き、名案、とばかりにラズは言う。

「――なので、聞きに行って貰えませんか?」

それに、ふむ、と息を吐いたのは柚葉だ。

「それは構いませんよ」
「そうねー。なら、一旦外まで戻る?」

<軽く腰に手を当て、言ったリーベに、柚葉は、いえ、と軽く首を振り、振り返る。刹那、ちらりと、エドアルトへ目配せすれば、分かっているとばかりに、頷きが返った。/span>

「戻るのは、あの2人と合流して、話を聞いてからでも良いんじゃないかな。追いついてきたみたいだから」

そう言ったエドアルトの示す先。先程、自分達が通ってきた暗い廊下の奥。ざわり、と蠢く闇の中、青白い光が横切った。左から右へと通り過ぎていった光。それは、リーベにとって見慣れたものだ。十字路を真っ直ぐに通っていったのだろうそれは、少しの間を置いて戻ってきたらしい、また右から表れ、今後は真っ直ぐこちらへと向かってくる。近づくにつれて、青白いルアフの光に照らされ、浮かび上がる青年達の姿に、リーベは思わず声を上げた。

*****

先程と変わらず佇む病院に、オーアは1つ息をつく。
途中、ジプニーに乗せて貰えたこともあり、想定よりも早く戻ってくる事が出来た。そんな安堵にも似た息だった。と同時に、さくさくと歩き、病院の扉の前まで来ると、オーアは、もう1度、未だ効果の残る基本支援を掛けなおし、更に、マグニフィカートとキリエエレイソンを追加でかける。

「っし、行くか」
「おぅ」

友人である金髪のギロチンクロスと、軽く声を掛け合ってから、気負いなく、オーアは病院の扉を開ける。木の軋む音を立てながらも、簡単に開く扉。刹那、ざわり、と漏れ出した異質な空気が、ざらりと肌を撫でていく。次いで目に映るのは、暗い室内。灯りがない事を差し引いても、妙に暗く感じる光景に、ヴァレリーは、思わず辟易とした目を向ける。

「うへぇ……夜目は効く方だけど、さすがにこの暗さは酷いな。たいまつとかある分、ピラとかのが明るいだろ、これ」
「だろうな」

さらりと同意し、オーアは躊躇無く病院内へと足を踏み入れると、軽く振り返った。

「ここはまだ、ダンジョン登録してないからな。あーゆーとこって、魔物が外に出て行かないように、ってゆー処置の他に、少しでも冒険者の支援になるように、って、視界とか気温とか、酸欠にならないように、とか、何をどうしてるのかは知らないけど、補助的なものを一緒にやってくれてるんだってさ」
「へー。良く知ってんな」

感心したようなヴァレリーの声に、オーアは軽く肩を竦める。

「退魔班の仕事で、廃墟とかにいる幽霊的なの祓うよーな事とか、あるんだけどさ。俺も似たような事ぼやいた事あってなー。そん時に上司さんに、ダンジョンじゃないんだから当然だー、って教えてもらったんだ」

そんな事を言いながら、手慣れた様子でルアフを唱え、青白い光を呼び出すオーアに、なるほど、と返してヴァレリーも病院内へと足を踏み入れ、扉を閉める。開きっぱなしにして、他の住人が、うっかりここに足を踏み入れたら事である。そうでなくても、開かれた扉の向こうから、魔物の姿を見られただけでも、大騒ぎになるのは考えなくても分かるため、当然の措置だろう。
妙に暗い暗い闇の中。けれど、ルアフという光源があるだけで、動くのに支障の無い程度の視界は確保出来ている。それを確認し、ヴァレリーは、ほっと小さく息をつく。さすがに、初めての場所、何が居るかも分からない状況で、更に暗闇というハンデは負うのは勘弁であったので。
けれど、あぁ、でも、とヴァレリーはすぐに思い至る。もし、戦闘になったならば、オーアはMEを使うだろう。であるなら、始めから、その心配は要らなかったな、と。むしろ、明暗差に気をつけるべきかもしれない。地面から立ち上るMEの光を思い浮かべ、それにつられて、共に行った狩場の様子を思い出し、ヴァレリーは改めて、実感を持って納得する。

「そーいや、確かに。グラストヘイムとか、光源少ない上にあんなに入り組んでんだから、普通だったらもっと暗くなってそーだよな。そーゆー事か」

さくさくと歩き出したオーアの隣に並びながら、そう口にすれば、金髪のハイプリーストは軽く頷く。

「そそ。まー、それの最たる例って、イズルートのとこの下じゃね?」

イズルート海底洞窟の第4層。完全に水没しているエリアを思い出し、あー、とヴァレリーの声が漏れる。

「ナルホド、確かに」
「まー、あれは、元々何かあって行けるようになってるのか、どうにか何かして行けるようにしたのか分かんないから、俺が言ったのとは全然関係ないかもだけど。そも、俺、あそこ行った事ないし」

意外な言葉に、ヴァレリーは目を丸くする。

「え。珍し……くもないのか? アコ系だしなぁ」
「んー。アコの時に3階までは行った事あるんだ。けど、俺もあいつもその時1次職だったし、4階の入り口だけ見て、降りずに帰った、って感じだったなー、って。プリになってからは、やっぱ、そーゆーとこがメインになってたし――」

そこまで口にした、その時だった。

『そうそう、もう1つ報告事項』

そんな声が、2人の脳裏に響く。少し前も響いていたリーベの声だ。

『――病院入って、すぐの所にね、レンくんの冒険者証が落ちてたわ。留め具が外れた状態でね』
「っ」

リーベの言葉に、オーアは小さく息を呑む。脳裏に浮かぶのは、先程通ってきたばかりの病院の入り口。あそこに、落ちていたというのか。ぐ、と強く強く手を握りしめたのは、無意識の事だった。

『それは……壊れた訳じゃなかった、って事だよな』

確認するように、問いかければ、返ってくるのは肯定だ。その事実に、眉が寄る。と、その時、ざわりと感じたそれに、オーアは立ち止まる。足音が消えた事で、しん、と一気に静寂が広がる。が、それも、微かな間の事だった。

『外さなければならない状況、っていうと、パーティ会話を察知された可能性、かしらね。侵蝕を受けているならあり得る話だし。外した冒険者証をわざわざ落としていったのは、自分がここに居る、って示すため。っていうのが1番可能性が高くて楽観的な推測かしら。まぁ、実行犯に取られ捨てられた可能性も当然あるんだけど』

そんなリーベの言葉を聞きつつ、オーアは左斜め前方へと鋭い視線を向けた。その先にあるのは、一定間隔毎にある診察室か何かの入り口。今までも既にいくつか通り過ぎているそれの1つにすぎない。
けれど、度々、行動を共にしている金髪のギロチンクロスにとって、オーアの反応の意味は明白だった。こちらも瞬時に意識を切り替えつつ、オーアが視線を向けた方へと足を踏み出した。ついでに、パーティ会話へと口を挟む。

『冒険者が相手なら分かるけど、今回は違うだろ? あり得んの?』
『ふふふ~。あり得るのよねぇ、それが。冒険者を襲うことになれた、知能の高い、小賢しい奴だったりすると』

不穏に感じる女性の穏やかなはずの笑い声。それと同時に耳に届くのは、聞き慣れた調べ。オーアが最も得意としている魔術の詠唱だ。そして、同時に脳裏に響くもう1つの声。

『リーベさん、リーベさん、どうどう。ってか、もしそうなら、相手、初犯じゃないって事になるだろ。アレらは、大体取り逃がした事があって、学習した場合が殆どなんだから。もしくは、元冒険者か、だけど。どっちにしても、外からの人をめちゃくそ警戒していたここじゃあ、その可能性は低いだろ』

口では、マグヌスエクソシズムの詠唱を行いつつ、パーティ会話で全く別の会話を紡ぐ。時折、見る状況であるが、本当に、よくもまぁ、そんな器用な事をする、と何度目かになる感心と呆れの混ざった感想をヴァレリーは抱く。以前、それを口にした事もあったが、それにオーアはきょとんとした顔で、”讃美歌歌いながら、この後何しようかなーとか、何食べに行こうかなーとか、普通に考えるだろ? それと似たようなもんだって”と、けろっと、何てことないように、のたまっていた。讃美歌という単語に、聖職者らしさを感じたが、それ以上に、何言ってんだこいつ、と思ってしまったのを、思い出す。そんな軽く言うが、実際はそんなものではないだろう事は術式とか詠唱とはほぼほぼ縁のない自分にも分かる。だというのに、当の本人は、本当にそう思っているような声色なのだから。まぁ、詠唱に慣れた魔法職であれば、本当にそんな感じの可能性もあるのだが。
部屋の奥からギ、と小さく床の鳴る音が響き、思わず横に逸れた思考を、現実へと引き戻す。
次いで感じる気配。そこから姿を現したのは2体の魔物だ。継ぎはぎのある古びたローブを纏い、フードを被り、白い大きく不気味なぬいぐるみのようなものを背負った老人のような姿の魔物と、オークベイビーをガリガリに痩せさせ、肌を黒く染めたかのような魔物だ。マンククーラムとチャナックの視線がこちらを見据えた、その刹那。

「マグヌスエクソシズム!」

2体の魔物の足元から立ち上る破魔の光。ここにいる魔物にとって無視出来ないダメージを与えてくるそれに、魔物達の意識がオーアへと向かう。が、間髪を入れず、破魔の光を反射した銀の軌跡が走った。

「なぁに、よそ見してんのかなぁ?」

軽い口調にひやりとした鋭さを滲ませ、刃を振るうギロチンクロス。その斬撃に、魔物の害意がヴァレリーへと変わる。魔物こそ違うが、この友人との狩りではいつもの光景である。
それに、いつものように、タイミングを見計らい、2回程レックスエーテルナを唱えたところで、オーアは眉を寄せた。

『低いのは当然分かってるわよ。でも、ないとは言い切れない以上、頭にメモしておくのは必要でしょ?』
『ん。まぁな』

響くリーベの声に、軽く返して、すぐさま唱えるのは、2度目のマグヌスエクソシズムだ。
今現在、魔物にダメージを与えていた破魔の光が、消えていく。丁度そのタイミングで、2度目のそれが立ち登る。それから、少しして、倒れ伏した2体の魔物に、オーアはほっと息をついた。

「2枚は必要か。……ヴァレリー」
「ん?」

軽く振り返ったギロチンクロスへ、オーアは言葉を紡ぐ。

「次、出たら、タゲ維持より、倒すの優先してもらって良いか?」

その言葉に、ヴァレリーは軽く眉を寄せ、難色を示す。

「大丈夫か? それ。タゲ外れやすいみたいだったし、確実にそっち行くのが出るぞ」
「大丈夫だって。次からは、ちゃんと俺もMEの範囲内に居るようにするし」

つまり、ヴァレリーとの立ち位置が近くなるという事で、それはつまり――

「更にタゲ外れやすくなる奴じゃんそれ。大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫だって。キリエもセイフもあるし、てか、ヴァレリーの方こそ、大丈夫なのかよ」
「今のとこは問題なし。ちゃんと捌けてるよ。数多くなって来たら、さすがに分かんないけど」

その言葉に軽く頷いて、オーアは先へと歩き始める。ちりん、と小さく鈴の音が鳴った。

「ん。今なら、もうしばらく大丈夫だと思うけど、数来たら、ヴァレリーにもセイフ貼るな。……ここじゃ、俺の火力が足りてない。倒すのに時間かかる分、ヴァレリーに負担かかるからな。俺にも来るくらいで丁度良いだろ」
「そんなの、気にしなくていーのに」

オーアの隣に並び歩きつつも、少々不満げにそう言えば、オーアは苦笑する。

「悪いな。でも、さっさと合流したいしさ。大丈夫。危なそうだったら、ヴァレリーに頼るし。あと、そも、俺、本体バックサンク型だからなー。たまにはちゃんとやらんと腕が鈍る」

そんな軽口を叩きつつ、迷い無くオーアは歩を進める。ちりん、ちりん、とオーアの耳に控えめな、けれどはっきりと、涼やかな音が響く。

「……結構、響くなぁ」

鈴の音。そう呟くと、きょとりとした深緑の瞳がオーアを見返した。

「オーア?」
「あぁ、いや。さっきもらった鈴、結構音するんだな、って思って」

そう口にしたオーアに、ヴァレリーはふーん?と不思議そうな声を漏らした。

「俺には、何にも聞こえないけど」
「え?」
「まぁ、鈴、小さかったし、持ってる人くらいにしか聞こえない感じなんかね」
「か、なぁ……」

ヴァレリーの言葉に合わせるように、そう応える。通る音を出す鈴の音は良く響く。そこに鈴の大きさは関係ない。今自分の持つ鈴も、そのタイプだと思ったのに……
そんな事を考えつつ、幾度目かの十字路を真っ直ぐに進む。
ちりん。
また聞こえる鈴の音。こんなにも、はっきりとよく響くそれは、確かに大きな音ではないが、隣にいるヴァレリーにすら届かないほど、小さな音でもない。と思う。
ちりん、と音が鳴る。その意味を考えようと思考の海に沈みかけ……――刹那、ざわりとした感覚に、はっと、意識が引き戻された。

「げっ」

思わず引き攣った声を漏らし、オーアは足を止める。と、それを訝しく思ったヴァレリーが声を掛けるよりも先に、くるりと踵を返した。

「悪いヴァレリー。間違った」
「おぅ?」

足早に、来た道を戻り始めるオーアに、ヴァレリーは1つ瞬いてから、その後に続く。 今度は、何の音もしなかった。

今さっき、真っ直ぐに進んだ十字路を、今度は左へと曲がる。と、離れた所に、浮かぶ光が見えた。それは、オーアと同じルアフの青白い光と、火符の赤い光。それは、オーアとヴァレリーよりも先んじてこの場に足を踏み入れた面々が、そこに居る事を示していた。

「オーアちゃん!」

向こうも、こちらに気付いたらしい。ぱたぱたと駆けてくるリーベに、オーアは笑って軽く手を上げた。

「ただいま。お待たせ、だな」
「そんな事より! 大丈夫だったの!? 病院前で待っててくれれば迎えに行ったのにっ」

過保護としか思えない言葉を紡ぐ女性に、オーアは苦笑する。幼い頃から、なんだかんだ世話になっている身であるため、その頃の印象が抜けてないのは分かっている。その上、転生して、ハイアコライトであった時に、とある事件に巻き込まれ、多大な心配をかけた事もある。更に言うなら、現在のこのパーティ内で、オーアは唯一の上位2次職者だ。――レンを除けば――パーティーメンバーの中で、最も力量が低いという事実がある以上、リーベの対応も、まぁ、仕方ないと納得していた。

「あはは、悪い。でも、ヴァレリーも居たし、急げば、今なら大丈夫だと思ってさ」

頬を搔き、言うオーアに、ヴァレリーは瞬く。

「今なら? ……そういや、さっきも、今ならもうしばらく大丈夫とか言ってたな」

3人で、柚葉やエドアルトの居る階段前へと歩き始めつつも、オーアは口を開く。

「リーベさん達が先、進んでただろ? だから、リーベさん達が歩いた道、魔物倒して居なくなってるとこを進めば、そんなに戦闘はないかなって。ま、時間置いたら、他のとこから魔物が来るだろうから、今なら、だった訳」
「あぁ、なるほど。なら、確かに、オーアちゃんでも大丈夫か」
「確かに合流するまで出てきた魔物って、さっきの2匹だけだったもんな。……でも、よく同じ道辿れたよな。一本道ならまだしも、十字路とか結構多かったのに」
「ん。単純だよ。嫌な感じが少ない方を選んでっただけだもん」

さらりと言うが、それはオーアが、不死・悪魔種族の魔物への気配察知能力が極端に高い故である。不死・悪魔から狙われやすい体質に由来するそれは、オーアの特殊能力と言っても過言ではないだろう。最も、本人は命懸けの隠れ鬼を2回もやらされりゃ、そりゃな、と息を吐くのみで、その自覚は薄そうである。
何はともあれ、3人が階段付近にいる柚葉達の所まで合流すると、ラズは、何故か、ぱちりと目を瞬かせ、じっとオーアを見つめる。

「――どした?」

その視線に、小首を傾げて問いかければ、ラズはオーアを見つめたまま、距離を詰める。上から下へと、オーアを眺めてから、うん、とラズは、1人頷いて、口を開いた。

「すごい気配を感じますけど、何があったんですか?」

さっきは、そんな感じしなかったのに、というラズ。すごい気配、と聞いて思い浮かぶのは、先程貰った札だ。

「あぁ、シャーマンのおばあさんからお札を貰ったから……それかな?」
「シャーマンですか……そうだ! そのシャーマンの札を階段近くにあったお守りに貼ってみましょうよ。もしかしたら、不吉な気配を防いでくれるかもしれませんよ!」

今、思いつきました、とばかりに手を打ち、言うラズに、オーアは目を瞬かせる。

「不吉な気配?」

不思議そうな声をもらしたオーアに、ラズは大きく頷いて見せる。

「です! 階段の所に、小さな立て札があって、不吉な気配を出すお守りがあるんですよ! そのせいで、2階に行けなくなってるみたいで……」

「なるほど。シャーマンから貰ったお札なら、どうにかできるかも、って事か」
「はい!」

大きく頷くラズを見てから、オーアはリーベへと視線を移す。

「リーベさん。試してみても良い?」
「もちろん。オーアちゃんが貰ってきたものだし。私じゃあ、どうにもできなさそうだもの」

さらりと、そんな事をのたまってから、こっちよ、とリーベは階段へとオーアを誘導するように歩く。

『で、実際の所は?』
『使った振りで、術式、一部解けば良いかな、って』
『隠蔽は? 札の気配が分かるんだから、そのままだと危ないでしょ。まぁ、向こうの目的はそれなんだから、達成出来た時点で、気にしない可能性もあるけど』

歩きながら、ラズには聞こえぬようパーティ会話で言うリーベに、柚葉が口を挟む。

『危ない橋は渡らない方が良いかと。気付いた、という事は、相手がそれを脅威と判じた可能性もありますから』
『ん。それは分かってるけど……隠蔽かぁ。補助具なしでイケるかな……』

どこか不安げに漏れたオーアの呟きに、リーベは、1つ目を瞬かせると、ふと、思い出したかのように、口を開いた。

「そういえば、オーアちゃん。青石足りてる?」
「え。あー……あんまないかも」

その唐突な問いかけの意図を察し、少し困ったようにそう答えれば、アークビショップの女性は、腰に軽く手を当てた。

「もう。必需品、切らしちゃダメじゃない」

軽く咎めるようにそう行って、リーベは立ち止まると、荷へと手を差し入れる。じゃらり、と硬いものが擦れるような音と共に差し出された手。軽く握った拳の隙間から見える青。それに、オーアはパッと、破顔して、受け取った。

「さんきゅ、リーベさん。助かる」

そんなやりとりはとても自然で、端から見れば、他の意図があったようには見えないだろう。
受け取った青石を仕舞う際、1つだけ、紛れていた本命を隠し持つ。と、焦れたのか、先に立て札の元へと辿り着いたラズが、こちらへと向かって声を上げた。

「もー、何してるんですかー! 早く試してみましょうよーー!」 「おぅ。悪い、今行く」

ラズに対して、笑みを返し、オーアは一旦止めた足を再び動かす。元々、見える範囲にはあった所なのだから、歩けばすぐに、お守りの貼られた立て札の前まで辿り着く。問題のそれから発せられるぴりりとした気配を感じ取り、それに目を向け、うげぇ、と心境に素直な声が零れた。

「ね、不吉でしょうっ!?」
「……だなぁ」

オーアの声に、ラズがぐっと拳を作り、主張する。それに、同意を返しつつ、オーアはお守りを、それを使って張られた結界を視る。

『やっぱ、リーベさんにやってもらえば良かった……これも、めっちゃ複雑』
『これも、経験だと思って、ガンバって』
『うい。まぁ、さっきみたく絡まってないだけましか……と、それ、あと……あの式と紋様、だから……そことあの部分を……』

頭の中の呟きがそのままパーティ会話に漏れてしまっているのだろう、ぶつぶつと何事か呟いてから、よし、と声を上げる。

「んじゃ、やってみるな。何起きるか分かんないし、ラズちゃん達は少し離れててよ」
「はいっ」

そう声を掛ければ、ラズはオーアの後方へと下がり、他4人は、オーアとラズの双方が視界に収まる位置に移動する。それを確認した後、オーアは、取り出したお札を、立て札へと押し当てた。少なくとも、傍目には、そう見えた。 次の瞬間、立て札の発する気配が、弱まった。この場の全員が、それを感じられるほど、はっきりと。

「……き……た」

それを、ラズも感じ取ったのだろう。彼女の口から、小さな声が零れる。

「できた、できた」

「できたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできたできた」

まるで、壊れた機械のように、できたできたと、目を三日月のように細くし、ソレは不気味に嗤う。瞬時に、戦闘態勢に入る4人。立ち位置的に、1人離れていたオーアの足元から、セイフティウォールの赤い光が立ち上る。リーベが密かに唱えていたものだ。
同時にヴァレリーとエドアルトが地を蹴った。が、ラズは迫る2人には見向きもせず、”獲物”を見据え、口を開く。

「オ ー ア」

「っ!?」

オーアの名がはっきりと紡がれた瞬間、一瞬で、ソレはオーアとの距離を詰める。瞳が妖しく輝き、反射的に、顔を上げてしまったオーアと、ひたり、と視線が合った。合ってしまった。刹那――

ばちんっ。

大きな、破裂音にも近い音がその場に響き、ぐわん、とオーアの視界が回った。まずいと思う間もなく、地に膝をつく。パラバラと小さく硬いものが床に散らばる音が聞こえた。

「ぐ……っ」

まずった、と内心舌打ちを零しつつも、魔力を、生気を無理やり奪われる苦しさと不快感にオーアの口から勝手に呻き声が零れる。今は囚われの身である若草色の少年が、自分から魔力を得る時、どれだけこちらに気を使っていたのかがよく分かる。いや、そんな事に思考を飛ばしている場合ではない。

「オーアちゃん!」

ぐらぐらとする意識の中、響くリーベの声。同時に響くのは看護師に化けていたナニカの声だ。

「うまいうまいうまいうまい。もっともっともっともっと。よこせよこせよこせよこせ。あくむをあくむをあくむをあくむを」
「うる、さい……っ」

ここの結界を無効化すれば、それが本性を現すだろ事は予想出来てた。体質もあるが故に、その際ターゲットになるのは自分だろう事も予想出来ていた。対策はしていたつもりだった。けれど、予想外だったのは、相手の力量と自分の耐性の低さだ。
動けないオーアへと、ソレの手が伸びる。あぁ、確かに己はこの中で最も弱い。けれども、退魔班の一員である以上、こういうのが相手ならば、対処法は、抵抗の手段は、まだあるのだ。むざむざ術にかかった情けなさに歯噛みし、苦痛に苛まれ、ぐらぐらと揺れる意識の中、それでも、抵抗のための魔力を編もうとした、その時だった。
一瞬、とある考えが脳裏を過った。

――このまま捕まれば、容易にレンと合流出来るのでは?

一瞬の誘惑。

その考えは、オーアに致命的な隙を生ませてしまった。

「オーアっ!!」

ソレの手が、オーアに触れそうになった、その刹那。ぐいっと強く腕を引っ張り上げられる。と同時に腰に手を回され、支えられ、そのまま一瞬で、視界が後方へと流れた。少し視線を横にずらせば、目に映るのは、金の髪と、険しい色を宿した深緑。間近に見えるヴァレリーの横顔。ここで、ようやく、彼に助けられたのだと、ぐらぐらする頭で理解した。

「……わり。助かった」

揺れる意識の中、喘ぐように、どうにか礼の言葉を口にする。と、同時に、響くのはアークビショップの女性の声だ。

「ヴァレリーくん、GJ!!」

続けて、声が響く。

「一時撤退します!」

凜と響く声と同時に、半ばヴァレリーに運ばれるように、引っ張られる。顔を上げれば、ワープポータルを開くリーベの姿が見えた。光の柱の中に、問答無用で放り込まれる。
一瞬の浮遊感。次いで感じるのは光。明るさ。燦々と降り注ぐ太陽の光だ。それを知覚した時点で、足に力が入らず、1歩2歩歩いた所で、硬い石畳の上に、膝をつく。自然と間近に見えた石畳のその色は、ついさっき、見たばかりのもので、顔を上げれば、目の前に佇む病院。ポタを開いた彼女は、いつの間にか、病院前にメモを取ってたらしい。そういえば、その手があった。と、再び俯き、未だ不調の残る頭でそんな事を思う。

「オーア! 大丈夫か?!」

オーアに次いで転移してきたらしい。ヴァレリーが、膝をついたままのオーアへと慌てた声をかける。と、柚葉とエドアルトも来たらしく、気配が増える。最後に、とん、と軽い音を立てたのは、リーベだ。

「オーアちゃんっ!」

転移してくるなり、そう声を上げた彼女は、即座に、ブレッシング――正確には、退魔班仕様のブレッシングに近い魔術が正しいのだが、その差を感知し理解出来るのは、同じ退魔班の人間か、そういったものに敏感な者くらいだろう――を唱える。柔らかな光がオーアに降り注ぐと共に、ぷつり、と無理矢理引きずり出されていて何かが切れるような感覚がし、くらり、と反動で体が傾ぐ。オーアと、エドアルトの声が響いた。

「だい、じょうぶ」

倒れそうになったのを堪え、心配の声にそう返すオーア。それに、リーベは溜息を押しとどめてから、ぐい、とオーアへ、聖職者にとっては見慣れた瓶を押しつける。

「飲みなさい」

その言葉の意図は、よくよく分かっているため、オーアは、素直に聖水の瓶の蓋を開けると、その中身を1口、2口と嚥下する。と、間髪を入れず、再びリーベの唱えた術の光がオーアを包む。その光が溶け消えると共に、ほぅ、とオーアは息をついた。

「……ありがと、リーベさん。大分、楽になった」

多少、体に倦怠感は残っているが、それは、無理に魔力や生気を奪われた影響によるものだ。少し時間を置けば、問題ないだろう。そう判断して、小さく笑みを作って膝を付いたまま、リーベを見上げれば、何故か彼女の細い眉が吊り上げる。リーベの口が開く、その瞬間、声が割り込む。

「リーベさん、場所を譲って頂いても?」

柚葉の声に、リーベは一瞬、目を丸くしてから、無言で、1歩横へとずれる。そうして空いた場に、こつこつと小さな靴音を響かせ、歩み寄った柚葉は、オーアへと視線を合わせるかのように、片膝をつく。

「オーアさん、左手を」

凜と響く柚葉の声に言われるがままに左手を差し出して……そこにあるべきものが無い事に、オーアは目を丸くした。

「お守りが……」

常に身につけている事を厳命されていた、お守りであるブレスレット。普段、袖口から見えるはずのそれが、姿を消していた。
いつの間に、なんて、答えは分かりきっている。そういえばあの時、硬いものが散らばるような音がしていた。あれは、限界まで魔除けの効果を発揮した結果、お守りが壊れ、散らばったものだったのか、と理解する。

「理解しましたね? さすがに、その状態で、貴方を連れて行く事は出来ません」

キッパリと言われた言葉に、オーアは目を見開き、ひゅっと息を呑む。

「柚葉さんっ! でもっ!!」
「ただでさえ、瘴気耐性の低い貴方が、お守りの補助もなく、もう1度あの中に入って平気な保証はありません。いえ、影響を受ける可能性の方が高い。その上、アレに襲われ、確実に繋がりが出来てしまっている。そんな貴方が、足手纏いにならないとでも?」

容赦なく告げられた厳しい言葉に、オーアは、ぐっと声を詰まらせる。柚葉の言葉は正論でしかない。ただの狩りであるなら、まだしも、これは依頼であり、他人の命がかかっているのだ。個人的心情に依る意見――我儘――など、言えるはずがない。悔しさと情けなさに、強く、手を握りしめた。

「分か、った。けど、残るとしたら、俺1人だ。この状況で、これ以上、俺のせいで、戦力が減るのは認められない」

悔しさに顔を歪めつつ、けれども、真っ直ぐに、黒曜石の瞳を見返す。真剣なオーアの視線を受け、柚葉は、ふっと、表情を緩めた。

「すみません。少し、意地悪でしたね」
「へ?」
「オーアさん。左手を」

突然の言葉に、オーアは間の抜けた声を漏らす。そんなオーアに、柚葉は、苦笑を見せると、もう1度、左手を出すよう促した。先程のは、自分がお守りをつけていない事を気付かせるための言葉だったはず。それをもう1度言う意味が分からなくて、オーアはきょとん、と緋色の目を瞬かせた。それでも、いつの間にか、下ろしてしまっていた左手を、再び差し出す。不思議そうにこちらを見上げつつも手を出した素直さに、柚葉は小さく笑みを零し、ソレを取り出した。彼女の手にあったものに、オーアは大きく目を見開く。それは、丸い石が連なったプレスレットだ。黒と透明を基調としたそれは、自分のものだったそれとはまた違うものだが、それでも、それは。

「ここに来る前。リーベさんから、この依頼の話をされた時、1つ、お守りが必要になる予感がしましたの。それで準備をしていて、その時は護衛対象の子に必要になるのかと思ってたのですけど……実際、会ってみれば、あの子に、こんなものを付けたら逆効果になりそうで、珍しく勘が外れたと思っていたのですけれどねぇ。こんな所で、必要になるなんて」

そんな事を言いながら、柚葉は、オーアの手首をお守りであるそれを付ける。

「オーアさんに合わせて作ったものではありませんので、壊れたお守りほどの効果は見込めませんが、それでも、それなりの効果はあるはずです」

もう1度、病院内に入れるくらいには。その言葉に、オーアは目を丸くする。

「なんで……」

先程から、驚いてばかりだと思いつつも、そう声を漏らせば、柚葉はにこり、と笑う。けれど、その笑みに反して纏う空気は冷え冷えとしていた。

「言いましたでしょう? 意地悪と。先程の行動。いくら未遂とはいえ、私も腹立たしく思っていますの」

当然、心当たりがないなんて、そんな愚かな事は仰いませんよね?
笑っていない笑みで、紡がれた言葉に、ひくっと、オーアの口元が引き攣る。バレてる。ちらり、とヴァレリーやエドアルトの方を盗み見てみると、訝しげな表情をしていたため、そちらには、気付かれていないらしい。まぁ、”まだ”が、頭に付くのだけど。何故なら

「後は、私以上に怒っている彼女から、大人しく怒られてくださいな」
「ですよねぇぇぇ……」

柚葉の言葉に、がっくりと、両手を地につけ、オーアは項垂れる。柚葉が気付くのならば、同じ退魔班に所属している彼女が、気付かない訳がないのである。恐る恐る、リーベの方を見上げたオーアに、薄茶色の髪のアークビショップは、目を据わらせて、腕を組んだ。

「さぁて、オーアちゃん。申し開きがあるなら、聞こうかしら? わざと、アレに、捕まろうとした、理由を」

一語一句キッパリハッキリ紡がれた言葉を聞いて、ヴァレリーとエドアルトから、ぎょっとした視線が向けられる。それをひしひしと感じ、分かってはいたものの、文字通り四面楚歌となった状況に、オーアは視線を泳がせる。

「いや、えーっと、その……ワザと、って訳じゃ、なかったんだけど……」
「へぇ? 本当に、何も出来なかったとでも?」

そんな訳無いわよね、と笑ってない笑みを深め、圧をかけてくるリーベに、オーアは反射的に、軽く両手を挙げる。

「そこは、うん、否定はしません。実際、術、編みかけだったし……」

にこり、と更に深まるリーベの笑み。やはり、向こうもそれに気付いていたからこその怒りだと理解する。
深々と1つ息をつき、オーアは白状する。

「ただ、その、もし捕まったら、レンと簡単に合流できるな、って、一瞬、ちょっと……思いましたスミマセン」

たらり、と冷や汗を流し、オーアはリーベから視線を逸らす。後ろめたいが故というのももちろんあるが、リーベの発する空気が恐ろしくなっていったため、というのが大きい。
本音を言えば、そんな事より、一刻も早く、病院内へ入りたい所だが、そんな事を口にすれば、火に油なのは明白だし、奪われた魔力を回復させた方が良いのも分かっている。
そして、やらかしたのも事実で、悪いとも思っているため、魔力の回復を待つ間くらいは、大人しく説教される事にしようと、オーアは小さく息を吐く。そうして、そろり、と視線を戻した金髪のハイプリーストに、リーベが口を開きかけた、その時だった。

「あなた達ね!!? 一体、何て事をしてくれたのっ!!」

閉ざされていた病院の扉が、音を立てて開くと同時に、そんな、聞き覚えのない声がその場に響いた。

be continued

あとがき
久方ぶりでございます&遅くなって申し訳ない。 前話投稿から、半年以上経ってる~~あはははは……うん、すみませんでした。……まぁ、待ってる人がいるかというのはあるけれd(殴
一応言い訳するなら、2月の時点で、たしか7割くらいは出来てたんだけどね……うん。ツイッター見て分かる通り、いつぶりか分からないくらい久方ぶりに、別ジャンルの沼に落ちて溺れておりました。まだ、色猫卓沼にいるけど、ROにも帰って来れるようになった感じ。面白いから、ぜひ、動画、見てみて欲しい。
それはともかく……よーーーやく、書きたいシーン1つ消化出来たぁぁぁ!! あのシーンが書きたいがために、この話を書き始めた……というとさすがに過言だろうけど、ネタ練る切欠になったシーンなのは間違いない。
見ての通り、全話に引き続き、情報収集なシーンは出来る限りショートカットしてます。本当は、シャーマンに会いに行くのもカットしようと思えば出来たんだけどねぇ。事実、その必要を感じたのはオーアのみだし。でも、まぁ、大元のクエでは出来なかった、お札の正しい使い方、をぜひやりたいなぁ、と思っていたり。あと、オーアの方はアレないと多分詰む。それと、シャーマンからおまけに貰っていた鈴。鳴らない鈴が鳴る、ってロマンだよね! ただ、Missingをめっちゃ彷彿としてしまったため、うーあーネタかぶりぃ、と採用するか悩んだ悩んだ。まぁ、結論、やっぱ、あった方が良いってのと、こんなんよくある設定だろ!と開き直る事にした訳ですが ←
あと、オーアがシャーマンの所へ行くとき、リーベが反対理由に合流時の事を挙げず、ヴァレリーさんがそこ突っ込んだのは、オーアに対する認識の差かなー、と思っていたり。リーベを筆頭に、ヴァレリーさん以外は、オーアを庇護対象というか、下に見てるから。後輩だし、子供の頃知ってるし。もし、普通に狩りとかしてて、オーアが青石切れたから取ってくる、とか、何かで、一旦別行動したとして、合流するってなった時、ヴァレリーさんなら、頑張って戻ってこーい的な感じじゃないかなーって思うんだけど(もちろん場所にもよるとは思うけど)、リーベさんやエドアルトさんだと、当然のようにダンジョンの外まで迎えに行く、みたいな。そういう差かなー、と。
あと、ちょいちょいどこかしらで語ってるような気はするんだけど、オーアは元々感知が高め。なんだけど、幼少時のニブル落ちで、生き残るため、本能的にその対象を不死・悪魔系に極振りし、更に、厄寄せの対抗能力も感知に極振りした結果、特定の相手にだけ、とんでもなく感知が高いっていう。まぁ、そこまでしなきゃ、生まれてからずっと、家の中に閉じ込められてた幼い子供が、丸1日以上も、ニブルヘイムの、しかも外で(……最初の宿屋で怖い思いしたから、逃げ回っている時に、他の家に入るという選択肢、実は取ってなかったんだよねぇ)、魔物から逃げ隠れし続けられないよね、という話。まぁ、そんな訳で、実はオーアは、狩りの時、敢えて嫌な感じがする方へ行ってたり、MHになってそうなとこは避けたりしてる、という裏話。ただし、ME効かない相手は感知も出来ないので、そっちに襲われて、テレポからのMH、は割とあるあるだったりする。……オーアって、変なとこ、テレポ運なさそうだよね(酷
話を戻すけど、2手に分かれてたのが合流してからは、ヴァレリーさんとエドアルトさんが空気で申し訳ない。本当に申し訳ない……orz 3人超えると空気な人が出てくる私orz
この辺り、LvUPしたいんだけどねぇぇ……難しい。
……それはともかく。さーてさてさて……次で、ようやくボス戦です。今から既に、戦闘描写で頭抱える未来が見えてるけーどねーーー……(トオイメ
んでもって、次で終われるといいなー、と思ってたんだけど……
予定では、この話、病院再突入なとこで切ろうと思ってたのを、文字数さすがに3万字超えは……と前倒しし、1つ忘れてた事を回収するため、ちょこっと(忘れなければ)道中のシーンが追加されるし、あと、ボス戦諸々とエピローグ……と考えると、あと、2話になるかもしれない、と今から思う、私です……orz


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使用素材: 幻想素材館Dream Fantasy様 オブジェ

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